城とサクラ

花見に誘われても気乗りしない私が、小倉城のサクラ見物に出かけて行ったのはなぜだろうか。
私がハンセン病療養所へ入所するとき、写真はすべて焼き捨てた。「逃亡者」の手がかりになるようなものは、一枚たりとも残してはならないと思ったのだった。しかし写真は焼き捨てても、心に残るイメージを消すことはできない。惜しいと思う一枚に、松山城とサクラを背景に撮った、中学五年生のときの写真がある。城とサクラというのは、ロマンチックというか、様々なストーリーが湧いてくるのである。私は小倉城の石垣を眺めながら、松本清張記念館に行く途中、向こうから裃(かみしも)をつけた侍が歩いて来る幻影を見た。時代劇映画を見過ぎたせいもあるかも知れない………。
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【著者紹介】
島 比呂志(しまひろし)
1918年香川県生まれ。1940年大陸科学院勤務。43年東京農 林専門学校(現東京農工大学)教員。48年国立ハンセン病療養所星塚敬愛園に入所。主な著書に、作品集『生きてあれば』(講談社、1957)、『奇妙な国』
(新教出版社、1980)、評論集『片居からの解放』(社会評論社、1984)、『らい予防法の改正を』(岩波書店、1991)など。99年星塚敬愛園を退所
、北九州市に転居、現在に至る。
矢辺 拓郎(やべたくろう)
1972年生まれ。共同通信写真部カメラマン。現在東京本社勤務。
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