〈JINKEN BOOK's Special〉
「ハート」で挑戦、自己解放への道
「歩く水平社宣言」を自称する部落出身者・川口泰司さんが自らを熱く語ります。
(2003/05/01up)
★ 第13話〜第14話 ★
第14話 「オカン、どこいったん……」(2003/05/01up)
第13話 「闘い方はいろいろあった!?」(2002/12/18up)
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第14話 「オカン、どこいったん……」
(2003/05/01up)
高校3年生の春、母が失踪・・・?
高校3年生の春、ボクはゴールデンウィークを満喫していた。なぜなら、お母さんが旅行でいないからだ。と、いうことは〜、ボクの家は無法地帯!(笑)。
「やっぱ、ガミガミ言うおかんがおらんと、のんびり過ごせるなー。美紀(姉)」
「そんなこというて、ほんとはお母さん、おらんなったら一番ヘコむのあんたやろ!」
「そ、そんな、ことないわい!」
と、他愛も無い会話をしていた。まさか、それが現実になるとは知らずに……。
約束の日がきてもお母さんは帰ってこない。そして夜になった……。
「おい、美紀、お母さん、今日帰ってくるって言ってたよな?」
「う、うん……。」
「もう夜の9時やで、なんかあったんかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
時計の針は深夜を回ろうとしていた。
「なぁ、美紀。明日、お母さん、仕事(母は喫茶店をやっていた)あるよな?」
「もし、今日帰ってこんかったら、お店、誰があける? お父さんも、明日仕事あるし・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
お母さんの友だちや実家に電話をしても、誰も知らない。 ひょっとして、お母さん、事故か何かに巻き込まれたのか? おいおい、マジかよ、生きてるんか? とボクは本当に心配になってきた。そして、翌朝を迎えた。母が経営している喫茶店のドアには「誠に勝手ながら、しばらくの間休ませていただきます」と書かれた紙が寂しく張られていた・・・。
同情するなら愛をくれ!?
母がいなくなった翌朝、テーブルの上にメモと千円札が一緒においてあった。メモには「今日は弁当がないから、これで昼、弁当を買って食べなさい。父より」。
父は毎朝5時から仕事なので、ボクが起きたときにはもういない。
その千円をポケットにつっこみ、玄関を出ようとしたその時だった。ばあちゃんが奥の部屋から出てきてそっと千円札をボクに差し出す。
「やっちゃん、これ昼の弁当代や……。」
「お父さんからも、メシ代もらっとるけん、ばあちゃん、いらんよ!」
そう言ってばあちゃんの手をふりほどこうとした。それでも、ばあちゃんはしわくちゃの温かい手でボクの手をとり、千円札をギュッと握らせる。ボクは胸が痛くなった。その千円札を握り締め、家を飛び出した。
なんで、なんで、みんなお母さんがいなくなったことを口にしないんだ! という悔しさ。と同時に、そのことを口に出せないみんなの気持ちも痛いほどわかっていた。ボクの胸はギュっと締め付けられる。口にしないのではなく、口を開けば、思いが溢れでてきて、どうしていいかわからないからだ。「母がいない」という現実をボクたちはまだ、受け入れたくなかったのだ……。
高校生のボクにとって、一日2千円というのは大金だった。1週間で1万4千円。ボクの財布は日に日に満たされていく。でも、ボクが欲しいのはお金じゃない! この気持ちを埋めてくれる愛情やねん! オカンやねん! 「同情するなら愛をくれ!」(笑)だった。
駅で待っていた人は・・・!
そんな不安定な状態のボク。お金だけはある。寂しさ、しんどさを紛らわすために、カラオケやゲームセンターへ。家にも帰らず連日深夜まで遊びまくる。でもそんなことでボクの気持ちは満たされはしない。そんなことはわかりきっていた。みんなと別れて一人になった瞬間、どうしようもない孤独感と寂しさで涙が止まらなくなる。
そんな日々を送り始めていたときのことだった。月一回の「高友」の日が来た。ボクは会長をしていたので、絶対に参加しなければいけなかった。だがその日はサボった。電車で2時間近くかかる松山へ遊びに行ったのだ。夕方、「高友」が始まる時間になると、心配した仲間から、ボクのポケベルに何度もメッセージが送られてくる。そのメッセージを読みながら、嬉しくて涙が出そうになる。会に参加しなくてゴメンという罪悪感を抱きながらも、自暴自棄になることで一時的にでもしんどさを紛らわすために遊んでいた。そして、終電で宇和島に帰った。
駅の改札を出て、自分の目を疑った! そこにひとり、ただずんでいる人がいた。ここにいるはずのない人が! それは中3の時の担任(第3話参照)だった。「高友」の仲間が、T先生にボクのことを連絡していたのだ! T先生は車で2時間もかかるところに異動していたのに、宇和島まですっとんできてくれた。そして終電までずっと、ボクのことを待っていてくれていた! 中学を卒業して3年も経とうとしていたのに……。
教師と生徒としてはなく、一人の人間として……
先生はボクを見つけると、優しく微笑みながら、近寄ってきた。
「先生!こんなとこでなにしよるん!」
「異動したのに、なんでここにおるん!」
ボクはわかっていた。先生がボクのことを心配して駆けつけてくれていたということを。それでもボクは不器用な言葉をかけるしかできなかった。先生はそんなボクをギュッと抱きしめた。ボクはなんだかわからない感情が込み上げてきて涙が溢れてきた。そして、ボクの胸の鼓動が落ち着きを取り戻しはじめたとき、先生が
「やすし、元気やったか。……家まで送ったる。車に乗れ!」
と優しく声をかけてくれた。 そして家に着いた。
「先生、まぁ、あがりや。あした平日やで、学校だいじょうぶなん?」
「あるけど、年休とってきた。そやらから心配せんでいい。」
その言葉を聞きながら、そっと先生にビールを差し出した。僕も手元に缶ビールを持っていた。
「先生、オレも飲んでいいか?」
「……かんまん(だいじょうぶ)、飲みたかったら飲め。今日は教師としてでなく、一人の人間として、T個人としてお前に会いにきたんや!」
この言葉。ボクにとってはすごく嬉しかった! 同和教育の担当を離れたり、地区のある学校から離れたりすると、パッタリと部落問題に関わらなくなる先生を今までたくさん見てきたからだ。でも、T先生は違った。それは教師としてではなく、一人の人間として、部落差別と、いや、ボクという人間と本気で向き合ってくれていたからだ!
教師と生徒としてではなく、一人の人間としてつながる。同和教育を通して、本気で人と向き合う、つながってゆく。それがどういうことなのかが伝わってきた。ボクは少しずつ人の温もりに包まれはじめていた・・・。
そうして、二人は夜が更けるまで語り明かした。 (第15話につづく。次回更新をお楽しみに!!)
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第13話 「闘い方はいろいろあった!?」
(2002/12/18up)
松山のN放送局への取材を終え、宇和島に帰り、みんなでその感想を語っていた時だった。そんななか、ひとり、何かを思いつめたようなIちゃんの姿があった。
「あんね、いま、うちのクラスで、いじめがあるんよ」
ボクたちは一瞬??という感じで、Iちゃんを見た。
「いじめっていうか、1人の子が、クラスのみんなからシカト(無視)されよんよ」
「休み時間とか、グループになったりする時に、その子1人だけが、はずされるんよ……。」
Iちゃんの話によると、クラスのボス的存在の子が1人の子にムカツイて、シカトをする、悪口を言う、といった仲間はずしをするのだそうだ。Iちゃんはその状況をなんとかしたい、なんとかそのボス的な子に抗議したいと思う。でも、怖くて何も言えない……。
ボクは話を聞きながら、メチャクチャ腹が立ってきた。
「オレが行って、そいつに言うたるわ!」
そのボス的な子を、ボクはよくしっていたから、なおさらだった。
「Iちゃん、Iちゃんの気持ちはすごくわかるよ。でも、いじめられている子からしたら、何もしてくれず、その状況を黙って見てるみんなも、いじめているのと同じように見えるんやで! 自分が直接いじめてなくても、その子にとっては同じことなんやで! なんのために高友にきとるん!」
そのいじめへの怒りと腹立たしさで、ボクはIちゃんにキツイ口調で言っていた。Iちゃんは、なにもできない自分への悔しさで、涙をこらえ歯をかみしめていた。一瞬、その場がシーンとなった……。
Kくんが、その雰囲気をなんとかしようと口を割った。
「やっちゃん、やっちゃんが言いよることはようわかるよ。でも、それはやっちゃんやからできることなんてや! みんながみんなそのボスに抗議できるような子じゃないんてや! Iちゃんは、それはおかしいと思って、その状況を黙って見て見ぬふりはできんけど、直接そのボスに抗議すると、今度は自分にその矛先が向けられる。自分がいじめられる、そんな怖さ、そんな自分と葛藤しよるんてや!」
Kくんの言葉に、ボクはハッとさせられた。そうか、オレみたいな性格、立場、そんな子もおるけど、そうじゃない子もおるんや……。そんなん全然頭の中になかった。今のオレやから、そういう直接的な抗議をしようと思える。でも、そうじゃないIちゃんの気持ちなんか全然考えずに言っていた……。
Kくんの発言で、大切な何かを気づかされた。
「Iちゃん、ごめんな……。そのいじめなくしたい、どうにかしたい!っていう思いは一緒やのに、Iちゃんを責めるようなヒドイこと言って……。」
「あんね、わたし、今日松山行って聞き取りして、帰りの車でずっと考えよったんよ。『敵を探すより、まず味方を探せ!』ってことの意味を……。今のわたしやったら、直接その子に抗議はできんけど、クラスの大半の子は、そんないじめおかしい、なんとかしたいと思ってると思うんよ。ただ、みんな自分に矛先が向くの怖くて、無視とか、そういうのしよるんよ。わたし、今日の話聞きよって、まず味方を探そうと思ったんよ。1人ずつでいいけん、クラスの子になんとかしたい! おかしい!ということを話していこうと思うんよ。このままじゃ、いややけん! わたしにできること、やってみるけん!」
Iちゃんはその後、直接本人には何も言えないけど、自分の友達に一人ずつ「それはおかしいよ」という思いを伝えていった。少しのリアクションだが、地道にその行動を続けていった。
闘い方はいろいろあるんだ! ボクにとっては大きな「気づき」だった。 次回更新をお楽しみに!!
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コラム:ちょっと休憩 (−。−)y−。。。
ボクたちを見守ってくれた、同和教育課のおっちゃんの思いが伝わる一文です。
「ガリレオになろう!」
【地動説を唱えたがために裁判にかけられたガリレオが、死刑の宣告から逃れるため、信念を曲げて『地動説は誤りでした』と法廷で宣言したにもかかわらず、「それでも、地球は回っている」とつぶやいた・・・。】
「差別の壁に、刀を振りかざして真っ向から挑みかかっていくことだけが、闘いではない。そんな勇ましい闘い方はできなくても、どんなに消極的な方法でもよいから、とにかく、差別者に対して、『私はあなたの考えに同意しているわけではない』ということを意思表示する手立てを自分なりに考え、ささやかな実践を積み重ねていくことが大切なのだ・・・」
(愛媛県宇和島市同和教育協議会 『ガリレオになろう』より
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【川口泰司さん自己紹介 】
1978年生まれ。愛媛県宇和島市の被差別部落に生まれる。
小学6年生の時、「ブラック差別」と勘違いして立場を知る。中学時代、同和教育に本気で取り組む教師、同和教育との出会いから、解放運動に取り組むようになる。
趣味:サーフィン(海に行く途中、車でおもろい講師のテープを聞き感動している)、読書、メール
特技:部落問題を熱く語ること(放っておくと一日中語っています)
好きな言葉:「解放運動はフットワーク→ネットワーク→ライフワーク」「願生る(がんばる)」
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