福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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「強者」の自己正当化
『部落解放』2001年7月号)

(2001/06/25up)

 昨年末、部落解放同盟をはじめとするさまざまなNGOのがんばりによって、人権啓発・教育推進法が成立した。抽象的な法律だけれども、二十一世紀を「人権の世紀」にしなければならないという思いは、国会のなかでも非常に強かったように思う。
 二十一世紀を「人権の世紀」にというのは当然の思いで、差別をはじめとする人権侵害をなくすためには、差別の根本原因を打ち砕いていくこと、そして、人権救済と人権啓発・教育が、車の両輪のように必要だからである。
 石原慎太郎都知事は、外国人、とくに中国人に対する差別発言を新聞紙上で繰り返している。「すべての人に人権がある」という近代法の考え方の枠外にいるのが、石原都知事ではないか。残念ながら、社会のなかにはさまざまな差別があり、問題は山積みしている。「きれい事ではすまされない」と思う人もいらっしゃるだろう。しかし、それでも「すべての人が誇りを持って生きられる社会」をなんとしてでもつくろうと、いろんな人が営々と努力し、今も努力をし続けているのではないだろうか。
 「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書については、以前も書いたが、人権などの観点からもう一度、書きたい。
 「歴史教科書」も「公民」も、いずれも人権の観点から大問題である。
 姜尚中さんは、「アメリカに弱く、アジアに強く、文化的には、自己愛である」といっていたけれど、その通りではないか。
 韓国併合の記述は、次のようになっている。「韓国の国内には、一部に併合を受け入れる声もあったが、民族の独立を失うことへのはげしい抵抗がおこり、その後も、独立回復の運動が根強く行われた。韓国併合のあと、日本は植民地にした朝鮮で鉄道・灌漑の施設を整えるなどの開発を行い、土地調査を開始した。しかし、この土地調査事業によって、それまでの耕作地から追われた農民も少なくなく、また、日本語教育など同化政策が進められたので、朝鮮の人々は日本への反感を強めた。」とある。
 一見、客観的に書いてあるように見えるが、韓国併合の問題点をみごとにおおい隠している。韓国併合には、韓国のなかに併合を受け入れる声もあったこと、日本は、鉄道など施設の整備を行ったことが記述されている。植民地支配をしていたのだから、インフラ整備は日本のためにもなる当然のことなのに、わざわざ書くことで、植民地支配にもいいことがあったかのような誤解を生み、植民地支配を合理化することにつながる。「文句ばかり言っているが、いいこともしてやったではないか」というわけである。また、「受け入れる声もあった」とわざわざ書く必要があるだろうか。セクシュアル・ハラスメントのことを指摘すると、「喜ぶ女もいる」「挑発する女もいる」「今まで黙っていたくせに」と問題をすりかえることに似ている。喜ぶ女も挑発する女ももちろんいるだろう。しかし、そのことは、セクシュアル・ハラスメントの人権侵害の問題を減ずることには少しもならないのではないか。
 「強者」が、自己の正当性を主張している。
 いわゆる「従軍慰安婦」など、加害の記述がない。
 一九九三年、歴史教育をしなければならないと述べた河野官房長官談話は、一体どこへ消えてしまったのだろうか。
 また、全体的に、民衆の生活、苦しみ、抵抗などには、ほとんどふれておらず、民衆の運動、女性の記述が極端に少ない。
 「公民」の「男女平等」のところは、「人類の歴史は男女の性別の違いにより、さまざまな文化的・社会的な役割分担を生んできた」で始まり、九行しかなく、しかも「男女の生理的・肉体的な差異などに基づく役割の違いにも配慮しなければならない」で終わっている。性別役割分業の考え方であり、男女平等の考え方ではない。
 国民や女性に、我慢や自己犠牲を説教する考え方は、憲法が規定する「個人の尊厳」「男女平等」にまっこうから衝突する。これらの教科書のめざしているのは、憲法改正ではないか。


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