福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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「有事」の人権侵害

〈『部落解放』2002年01月号〉

(2002/03/13up)

 私の祖父母は、アメリカに移民した。
 父とその姉妹たちの多くは、アメリカで生まれた。子どものころ、家族の戸籍謄本を見ていると、父親がハワイで生まれたと書いてあって、「へえっ」と思った記憶がある。
  祖父がハワイで病死したので、祖母は、子どもたちを連れて、日本に帰ってきた。同居していた祖母は、どこか太っ腹な人で、ブロークンの英語をしゃべり、たまにハワイの思い出を語った。
  私が、アジアからの出稼ぎ女性の緊急避難所・女性の家HELPの協力弁護士をしたり、外国人や難民の問題にとりくむのは、こんな家族のバックグラウンドとどこかつながっているのかもしれない。
  一度も会ったことがないが、サンフランシスコに住む祖父の弟は、第二次世界大戦中、強制収容所に収容されたそうだ。私は、約十年前、ワシントンにあるスミソニアン博物館で、第二次世界大戦中の日系アメリカ人の強制収容所を扱った展示を見たことがある。ご存じのとおり、第二次世界大戦中、日系アメリカ人は、敵性外国人で、スパイを働く恐れがあるとして、夜間外出禁止令が出され、最終的には、紙切れ一枚で強制収容所に入れられた。塀に囲まれたほんとうに粗末な強制収容所である。日系アメリカ人は、住まいも仕事も全部捨てて、収容所にはいらなければならなかったのである。
  大戦中に、夜間外出禁止令は合衆国憲法違反だ、おかしいとして、夜間に外出し、逮捕され、有罪判決を受け、刑務所にはいった人たちがいる。一九八〇年代、再審請求が起こり、当時の状況の検証が行われた。その結果、日系アメリカ人がスパイを働いているという考え方は、戦時ヒステリーによる偏見であって、でっちあげであったことが明らかになった。その結果、再審請求は認められ、無罪となった。その後、アメリカでは、日系アメリカ人の人たちが力を合わせて、市民自由法を制定した。政府は、強制収容所に収容された人一人に対し二万ドルを支払い、大統領の謝罪文を手渡した。
  私は、戦争は嫌だ、人が死ぬのは嫌だと思うけれど、戦争が嫌なのは、それと同時に、戦争が起きるときは、必ず人権侵害が起きるからである。無理な戦争を対外的にやっていくために、内部を無理やり締めていく。「有事体制」といわれるものである。そして、それだけではなく、人種差別、排外主義も極端に起きてくる。ナチス・ドイツのユダヤ人などに対する弾圧、そして、アメリカの強制収容所、そして、日本のアジアの人々に対する差別……。逆に、人種差別は、戦争の一つの原因とも思えるけれど。強制収容所に入れられている人たちにとっては、まったく「不条理」の世界である。
  ところで、今回の九月十一日のニューヨークのテロを契機に、戦争と「テロ対策」という二つの側面が突出してきている。アメリカは、盗聴の権限を拡大し、また、テロリストの疑いのある人間は、裁判所の令状なしで、七日間拘束できるという法律をつくった。アパルトヘイト下の南アフリカのようだ。「テロリストの疑い」といわれても、いったいだれがそれを判断するのか。日本でも、今回成立した自衛隊法の改正法では、防衛秘密をもらすことを非常に重く処罰することにした。そそのかしたり、助けた人間も処罰される。また、どれが防衛秘密になるかを決めるのは、防衛庁長官なのである。だれが決めるのかは、重要だと思う。そして、いまアメリカで起きていることは、第二次世界大戦中に、日系アメリカ人が、「スパイを働く恐れがある」とされたこととどこが違うのだろう。
  いま、サイバー犯罪条約や組織的犯罪条約が議論になっている。テロ資金対策法も議論になっている。「テロ組織」といわれているものにカンパをしても処罰されることになる。ここでの疑問も、だれが「テロ組織」と認定するのかということである。「権力者」が認定するのであれば問題ないということはないだろう。
  タリバーンに弾圧されたとして、難民認定を求めていたアフガニスタン国籍の人たちは、今回のテロ後、ついに収容されてしまった。強制退去令が出ているが、空爆のアフガニスタンに送還するのだろうか。人権の観点からとりくむべき課題はいっぱいある。




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