革手錠の使用は非人道的
〈『部落解放』2003年1月号〉
(2003/01/23up)
刑務所のなかで革手錠が使われている。
名古屋刑務所では、2002年の一月から9月までの9カ月間において、158回使われている。
革手錠というと、革でできた手錠という感じがするかもしれない。しかし、革でできたきついカセ、拘束具という感じである。 革手錠とは、腰の周りに非常に太い革ベルトをきつく締め、ベルトの前部分(腹部)、後ろ部分(背部)にそれぞれ両手、あるいは片手をしっかり固定して使用するものである。革ベルトを締めていくと腰がきつくなり、息をつくのも大変という状態になる。ある雑誌で革手錠を締めるのを企画としてやっていたが、ウエスト80センチの男性のウエストが、マイナス20センチの60センチになっていた。
両手をしっかり固定するので、肩から手、腰にかけてまったく動かせなくなる。そして、手首にはしっかり金属手錠をかけるということが行われることもある。これだと手首もまったく動かせなくなる。
両手をベルトの前部分(腹部)で固定するのもきついが、問題なのは、両手をベルトの後ろ部分(背部)で固定する場合である。体の硬い人はちょっとやってみてほしい。非常に苦痛である。もちろん両手前でも苦しいのだが。一番きついのは、実は、片方が前、片方が後ろとなる場合である。うつぶせに寝てもあおむけに寝ても、一方の手が邪魔になって眠ることができない。横になって寝ても苦しい。
革手錠を使用した場合、両手が使えないので、食事は「犬喰い」となり、用便時にも手が使えないので、「股割れズボン」をはかされる。非常に不潔になってしまう。
1998年11月、国連の人権規約自由権委員会は、革手錠の使用について、「残虐かつ非人道的取扱いとなり得る」と懸念を表明したのである。
革手錠の使用については、裁判がいくつも提訴され、国に対する損害賠償請求が認められたケースが五件ある。革手錠の使用について、違法とした判決が出たこと、国連の委員会から勧告が出たこともあり、通達が出て、その後、多くの刑務所では、使用回数が減っていっていた。
正直言って、私自身も最近は改善されていたと思い込んでいた。しかし、今回の名古屋刑務所の死亡事件をきっかけに、「改善されている」というのはまったくの幻想だったのではないかと思っている。
きっかけは、新聞の小さな記事だった。名古屋刑務所で、2002年の9月、革手錠をさせられ、保護房に入れられた人で病院に運ばれた人がいたことと、5月に死亡した人がいたことを報じた記事だった。法務省に過去のケースについて問い合わせてみた。過去3年間分を出してくれた(現在、委員会のなかで過去10年分を出してくれるよう頼んでいるところである)。見て本当に驚いた。過去三年間で死亡した人が5人、病院に運ばれた人は3人である。名古屋刑務所では、2001年にも死んだ人がいる。連続して死んだ人がいたとは一体どういうことだろうか。
名古屋刑務所の所長は、「正当な制圧であり、問題はなかった」と記者会見をした。しかし、その後、暴行があったとの容疑で、刑務官の人たちが逮捕されていった。
いろんな人から手紙ももらっている。革手錠をきつく締めるということそのものが暴行傷害となるということもあるし、もっと言えば、革手錠で締める前後で、集団による暴行がなされていることもある。
いままで、保護房のなかで脱水症状で死亡した人のケースで、遺族が弁護士を頼み、証拠保全をして勝訴した例などがあるけれども、死亡しても闇から闇に葬り去られたケースはもっとあるのではないだろうか。私自身、たまたま新聞記事を見て調べていっただけで、それまで死亡事件までいまも起きているとはあまり思っていなかった。
密室のなかでの人権侵害は、立証が困難であるし、弁護士もアクセスしにくい。先日も横浜地方裁判所は、警察のなかで自殺とされていたケースが、実は、警察官による誤射だったと認定した。密室のなかでの命にかかわる人権侵害をどう救済していくのか、本当に課題である。
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