福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

「参議院議員・弁護士 福島みずほのWebsite」はこちら



 

名古屋刑務所を訪問して
〈『部落解放』2003年2月号〉

(2003/01/23up)

  昨年(2002年)12月、超党派の議員で、名古屋刑務所に調査に行った。私自身、いままで多くの刑務所に視察に訪れていた。しかし、保護房にまではいったのは初めてだった。名古屋刑務所で、昨年の9月に傷害事件が発生し、5月に死亡事件が発生している。一昨年にも保護房内で腹膜炎で死亡した人がいる。実際、このなかで死亡した人がいると思って保護房内にいると、厳粛な気持ちにさせられた。
 保護房は五つあって、いずれも三畳弱ほどの広さである。窓は下のほうにごく小さな明かり窓が一つあるだけで、外界から遮断されている。何もなくて、床に和式風の小さなトイレと、やはり下のほうに小さな蛇口がついているだけである。トイレの水は自分では流せない。外からしか流せない。
 名古屋刑務所は股割れズボンを数年前からはかせていないとの報告があった。すると、素朴な疑問がわいてくる。革手錠をされた受刑者は、どうやって用便などをするのだろうか。法務省は、「その場合は解錠する」と回答した。しかし、そんなことができるだろうか。保護房は、他の舎房から隔離されている。監視カメラや音声を拾うところに向かって「トイレに行きたい」と叫んで、そこから事務連絡をしてもらって、保護房までかけつけてもらって、革手錠をはずし、また、つけるというのは、非現実的である。大体、間に合わないではないか。
 保護房にはいって、便を壁にぬりつける人がいるという話を法務省側から聞くことがある。これは、まさに、刑務所側が、便をきちんと保護房の外から流していないということである。結局は、垂れ流しになっているのではないか。
 また、今回初めて、「厳正独居」という処遇を受けている人が運動をする、俗に「鳥カゴ」と呼ばれる小さな運動スペースにもはいってみた。厳正独居とは、仕事も食事も自分の部屋で一人きりで行い、風呂も運動も一人で行うというものである。他の受刑者と話をすることはない。一人で運動するスペースは小さい。また、隣の受刑者とコンクリートの壁で仕切られている。全力疾走、かけっこなどできない小さな空間である。「えっ、ここで運動をするの?」と思ってしまった。
 今回、名古屋刑務所を訪れて、「一体、いままで何を見てきたのだろう」という感慨をもった。しかし、もちろん今回だって十分ではない。保護房内は異臭がすると聞かされていたのに、きれいになっている。議員の視察や調査は、とても貴重だけれど、何週間も前から「行く」と言って訪れたところで、「加工された現実」を見せられているだけではないか、きれいな所だけ見ているのではないかという思いにもとらわれた。
 南アフリカの人権委員長は、予告なく、約束なく刑務所や警察の施設を訪れる権限をもっている。韓国もそうである。人権救済といったときに、予告なく訪れることができるということは、きわめて重要である。予告期間が長ければ、いくらでも「加工」できるからである。
 ところで、2002年12月18日、国連総会で、拷問禁止条約の選択議定書が採択された。この議定書にもとづいて設立される拷問等禁止委員会内の拷問等防止小委員会が、締約国内の公私の身柄拘禁施設を訪問し、その施設の状況について改善の勧告などを行うこと、各国の国内にも拘禁施設に対する訪問機能をもった同様の一つ以上の委員会を設置することを義務づけるものである。
 国連総会では、賛成127カ国、反対四カ国(アメリカ、ナイジェリアなど)、そして棄権は42カ国(日本、中国、オーストラリアなど)である。発効するには20カ国の批准が必要だが、賛成が圧倒的に多いので、発効する見通しである。あとは多くの国、とくに日本がこの条約を批准することである。
 ヨーロッパ拷問防止委員会では、委員会がトルコの刑務所を訪れて、所内で拷問の被害者が発見され、その証言にもとづいて拷問道具の設置されている警察署内の部屋が摘発されたことがある。「加工されていない現実」をきちんと調査してもらう必要がある。条約を批准し、かつ、刑務所内の処遇をもっと変えようと言いたい。




「福島みずほの人権いろいろ」index


HOME


JINKEN BOOKは、(株)解放出版社が提供しています。 無断転載を禁じます 。
Copyright (C)Buraku Liberation Publishing House Co.,ltd 2001, All Rights Reserved


E-mail

(株)解放出版社
Phone:06-6581-8542(代表) Fax:06-6581-8552
東京営業所: Phone:03-5213-4771(営業) FAX:03-3230-1600