福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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改正DV防止法がめざすもの
〈『部落解放』2004年8月号〉

 

 DV防止法改正法が五月二十七日、衆議院で可決・成立した(六月二日公布、十二月二日施行)。参議院議員としてこの法案の作成に携わってきた福島さんが、五月二十九日、日本DV防止・情報センターととよなか男女共同参画推進財団が主催したDVセミナー「活かそう!改正DV防止法」(とよなか男女共同参画推進センター・すてっぷ、大阪府豊中市)で、改正法について講演された。その内容を掲載する。(編集部)  ドメスティック・バイオレンス防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律、以下、DV防止法)改正法が成立しました。この法律の立法者の一人として、どんな思いでこの法律をつくったのか、どんな議論をしてきたのか、積み残したテーマは何かなどについてお話しします。
■最初のDV防止法
 今回の改正は、二〇〇一年四月に成立したDV防止法にある三年後の見直し規定にもとづいたものです。そもそもDV防止法は、参議院の「共生社会に関する調査会」の活動から生まれました。この調査会に参加する私も含めた超党派の議員で、日本でとても弱いテーマである女性への暴力の問題にとりくむことを決め、イタリアとかイギリス、ノルウェーに視察にも行き、DVに関する法律をつくろうと盛り上がりました。ただ、法律のテーマを「女性への暴力」にするのか、「家庭内暴力」にするのか、混沌としていました。しかし、立法は偶然の要素で動く面があって、児童虐待防止法を衆議院の青少年特別委員会でつくることになり、ストーカー行為規制法も議員立法でできることになったので、その結果、夫婦間という問題が残り、私たちのテーマも決まっていきました。
 こうしてできたDV防止法のポイントは、まず、DVは犯罪行為であるという宣言を前文で行ったこと、二つめは、保護命令という新しい制度を導入したこと、三つめは、DV防止センター(配偶者暴力相談支援センター)の機能を都道府県に設置することを決めたこと、などです。その他、通報義務や関係機関の連携、NGOに対する援助なども盛り込まれました。
 保護命令は、夫からの暴力の被害者の申し立てによって夫に対して裁判所が発するもので、被害者への接近禁止(六カ月間)と、被害者と共に生活している住居からの退去命令(二週間)の二種類があります。これは民事と刑事をくっつけたような制度です。ある有名な歌舞伎役者がファンにつきまとわれ、接近禁止の仮処分をとったことが話題になりましたが、これは民事なので刑罰はありません。DV防止法では、刑罰による制裁(一年以下の懲役又は百万円以下の罰金)を担保としながら、なんとか女性たちの命を救うことができないかということで、保護命令制度の導入にかなりのエネルギーを注ぎました。役所からは、日本にはそういう制度はないと非常に反発がありましたが、超党派の女たちで押し切りました。ただ、これは刑罰法規なので、男性のみに適用するのはむずかしいため、法律のタイトルも「女性への暴力……」だったのが「配偶者からの暴力……」というかたちになりました。
 この保護命令制度をどれだけ使ってもらえるだろうかと思っていましたが、これまでに三千何百件の保護命令の申し立てがありました。使い勝手の問題はあるでしょうが、使ってもらっているという思いはあります。
 それから、「民間の団体に対する援助」もまったく新しい条文でした。DV防止や被害者保護にとりくむNGOに対して、これまで自治体からの援助はありましたが、国からの援助はほんとにありませんでした。私たちは、「機密費にお金を使うぐらいだったら、女のために使え」を合言葉に、こういう条文を置きました。
■市民立法としての改正法
 今回、見直し規定にもとづき、一年ぐらい前から議論を始めて、改正法案をつくってきましたが、これは議員立法というよりも市民立法だと思っています。調査会のDV防止法改正プロジェクトチームで議論する前に、超党派の女性議員たちと当事者、NGO、役所との意見交換会を何回ももちましたし、全国からいろんな声を寄せてもらい、議員会館にもきてもらいました。ですから、当事者、NGOの人たちと一緒につくってきたという思いがあります。
 今回の改正のポイントは、まず、保護命令の拡充、二つめはDV防止センターの機能の拡大、三つめは自立支援です。
●保護命令の拡充
 保護命令の拡充では、夫だけでなく元夫に対しても保護命令が出せるようになりました。また、被害者の子どもへの接近禁止も命じられるようになりました。これには「当該子が十五歳以上であるときには、その同意がある場合に限る」というただし書きがありますので、かなり年齢が高い子どもにも接近禁止が命令できます。しかし、いわゆる親族や友人、DVシェルターなどのケースワーカーへの接近禁止は実現しませんでした。これについてはストーカー行為規制法でやれということだったのですが、そうなると、被害者は、DV防止法の保護命令をとり、ストーカー行為規制法の禁止命令もとるという二重の仕事をしなければなりません。それで盛り込みたかったのですが、もともと保護命令は被害者の命を守るというところからスタートした点もあり、今回は拡充できませんでした。三年後の見直しのときに積み残しとして議論したいと思います。
 退去命令は、期間が二週間だったのが二カ月に延びました。二カ月でも短いのですが、二週間では何もできないので、二カ月に拡大したということです。また、退去命令は再度の申し立てが繰り返しできます。ただ、再度の申し立ての際の退去命令には要件があって、被害者が二カ月で転居できない事情と、夫の生活上の不便という両者の事情を勘案して発することになっています。夫の生活上の不便については、「当該配偶者の生活に特に著しい支障を生ずると認めるときは、当該命令を発しないことができる」と規定され、「特に著しい支障」に限定されていますが、これを厳格に解釈して、再度の申し立てをできるだけ妨げないように運用されるべきだと思っています。
 保護命令の要件に脅迫を盛り込むかどうかも今回の改正のポイントでした。改正にむけた論議のなかで当事者やNGOからは、「暴力は受けていないが、ものすごい脅迫や嫌がらせを受けているケースが多い。これに保護命令が出せないか」という意見が出されていました。DV防止法では、一度、暴力を受けている場合は保護命令が出ますが、脅迫などで暴力を受けるかもしれないと思っても、その場合は出ないのです。
 私は、立法の過程で、脅迫も盛り込むべきだと主張しました。一度、暴力があって再度の暴力というのは蓋然性が高いが、脅迫だけでは暴力が発生するかどうかわからないという議論がありましたが、たとえば「必ずお前を殺しに行くぞ」という脅迫があって、客観的状況から「危ない」とはっきりわかるような場合には、接近禁止をやる必要が絶対にあると思います。また、脅迫は立証がむずかしいという話もありましたが、その点は暴力も同じだと思います。アザがあっても、アザと夫の暴力との因果関係の立証がむずかしい場合もありますし、逆に脅迫は、手紙とかメール、テープに残っていて、立証が容易である場合もあります。結局、今回は脅迫は盛り込まれませんでしたが、次回、もう一度、議論していきたいと思っています。
 それから、いま保護命令は出してもらっているだけで、執行力がありません。「警察本部長等の援助」という条文は新たに入っていますが、これも今後の課題です。
●国の基本方針と都道府県の基本計画
 これまでに保護命令が出された件数は、都道府県によってまったく異なっています。これは、県民性によって殴るか殴らないかが変わってくるわけではなくて、門戸を広く開いているところほど、被害がちゃんと表に出てくるということです。全国のNGOの人たちと話していて、都道府県によるデコボコをなくして、自治体がきちっととりくむ体制をつくろうというのが今回の獲得目標になりました。
 それで、国はDVの防止と被害者の保護のための施策に関する基本方針を、都道府県は同じく基本計画をそれぞれ定めなければならないという規定を新たに設けました。これで、いままで関心が薄かった都道府県も、基本計画をつくるために、自分の県がどんな現状で、何をやらなければならないかを考えなければなりません。デコボコのボコの部分を上げていくことになると思います。
 次に、いまDV防止センターは都道府県にしかありませんが、市町村もこの機能を設けることができるようになりました。市町村という身近なところにセンターができれば、DV防止にとって非常に大きな意味があると思います。
●被害者の自立支援
 今回の目玉のひとつが被害者の自立支援です。現在は、被害者がいったん避難をしても、それから先のフォローがありませんし、自立支援を行っているNGOに対する援助も少ない状態です。それで、今回、「国及び地方公共団体の責務」の中に「被害者の自立を支援すること」を規定して、DV防止センターの業務の中にも「就業の促進、住宅の確保、援護等に関する制度の利用等について」援助を行うことという規定が盛り込まれました。
 また、「福祉事務所による自立支援」の条文が新たに加わり、福祉事務所は「生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法その他の法令の定めるところにより、被害者の自立を支援するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定されました。ただ、こういう抽象的な文言なので、ほんとうに福祉事務所で自立支援が行われるように提言・応援をしていくことが必要だと思います。
●マイノリティ女性の権利
 それから、外国人、障害者等への対応に関する規定が「職務関係者による配慮等」の条文に新しく入りました。「職務関係者は、その職務を行うに当たり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の国籍、障害の有無等を問わずその人権を尊重する」となっています。
 この間、私たちは、外国人のためのシェルターをやっている人たちや障害のある女性たちとずっと話し合ってきました。日本人の女性も大変だけれども、外国人の女性は、言葉の壁、文化の壁、はっきりいうと法律の壁があって、非常に困難な状況に置かれています。また、障害のある女性たちからは、介護者が夫である場合、その人から暴力を受けても、なかなか訴えていくことができず、あきらめてしまうという問題が出されました。法制局からは「こんな規定はおかしい。そんな例はない」と言われましたが、そんなマイノリティ女性の権利をはっきりさせたいという思いで、この規定を入れました。この規定には「国籍、障害の有無等」と「等」がついていますから、被差別部落、アイヌ、沖縄など、「国籍、障害」でくくられないマイノリティの女性も対象になりますので、今後、この条文をいろんな局面で利用していただきたいと思います。
■運用面での変化
 今回の改正点の主なものは以上のとおりですが、条文にはならなかったけれども、運用面でずいぶん変わった点があります。まず、外国人女性、とくにオーバーステイになっている人は、DV防止センターなど公的なところには、通報されるかもしれないという恐れがあって、なかなか行けません。これについて、「通報を前提としない」という通達を法務省に出してもらいました。これによって現場が変わりはじめているようです。
 もうひとつは住民票、あるいは外国人登録証の問題です。夫が住民票や外国人登録証をたどって被害者の行き先を突き止め
るという問題があります。これについては、総務省の審議会で検討することになっていますので、これを監視していく必要があります。
 三つめは健康保険証の問題です。夫の被扶養者になっていると、被害者はそこから離れないと新たに自分で国民健康保険に入れないのですが、夫がいじわるだと、なかなか分離できないという問題が起きています。これについては、残念ながら通達ではありませんが、厚生労働省の健康保険課が、健康保険の分離がスムーズに行くようにという文章をマニュアルの中に入れてくれました。
 また、関係予算については、超党派の女性議員で財務省とずっと交渉していて、少しずつですが予算も増えています。
■NGOとの連携
 それから、NGOとの連携についても、国会で立法者として答弁するなかで、今後の課題を提起してきました。これらの点については、これからつくられる都道府県の基本計画に盛り込んでいくなどの工夫が必要だと思います。
 ひとつは、これまでのNGOの業績を正当に評価し、協働のパートナーとすることを確認すること、また、NGOの支援関係機関への参画を保障することなどが必要です。
 また、DV防止法は被害者の一時保護をNGOに委託できると規定していますが、この一時保護委託料の適正化が必要です。たとえば、実質的に一時保護をしていても、契約をしていないと委託料が出ないとか、子どもの一時保護の委託料が安いという問題があります。それに、DVシェルターは、たくさん人が入っていてもいなくても、とにかく開けておくことが重要ですから、被害者一人につきいくらという委託料では、運営が困難になります。これらを適正化しなければなりません。
 それから、自立支援事業、電話相談、就労斡旋、カウンセリングなど多岐にわたる機能を公的に位置づけて、委託を行うことが必要だと思います。
 それから、地方自治体が被害者保護活動を行うNGOに財政援助を行った場合、国が特別交付税で手当てすることになっていて、内閣府は「国が特別交付税で二分の一をもつからと、都道府県に一生懸命、啓発しています」と言うのですが、現場のNGOの人と話すと、なかなか援助が下りてこないと言います。この問題も改善が必要です。
 NGOへの助成では、鳥取県が先駆的で、県独自事業として、被害者への一時金貸付、DVシェルターの家賃の支払い、被害者の医療費の支払いなどをやっています。こういうきめ細かい取り組みが今後、全国的に行われるようにする必要があると思います。
■加害者の更生プログラム
 今回の改正の積み残しのひとつに、加害者の教育、加害者の更生プログラムの問題があります。これについては、最初にDV防止法をつくったときも今回も、検討事項として残ったままです。「男に金を使うぐらいだったら、女の被害者の回復のために使え」という意見もありますし、加害者更生プログラムについても、効果があるという人と効果がないという人がいて、意見が分かれています。私は刑務所の問題などもやっているので、回復的司法は意味があるし、やらなければならないと思っています。ですから、DV予算から引っ張ってこなくても、刑務所の矯正プログラムの中身を変えるなど、工夫の余地があるのではないかと個人的には思っています。
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 おおよそこのような内容でDV防止法改正法が成立しました。積み残したこと、実際の運用にまかされているところがありますし、各省庁との交渉のなかでこれから検討される事項も出てきています。六カ月後に法律が施行されると、国がすぐに基本方針を出すと思います。その後、都道府県が基本計画を策定することになりますので、いい計画がつくられるように、みなさんも働きかけをお願いします。
 また、今回も三年後の見直し規定を入れましたので、今後の取り組みをふまえて、この法律の使い勝手なども検討していただき、当事者やNGOの人たちとまた議論して、よりよい法律にしていきたいと思います。




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