福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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人権擁護法案の再提出
〈『部落解放』2005年4月号〉

 

 二〇〇二年に提出され、二〇〇三年に廃案になった人権擁護法案が、今国会に再提出されようとしている。廃案になったのは、内容に批判が集中して、議論にまったく耐えることができなかったからである。
 今回提出されるという法案は、基本的に何も変わっていない。問題点は変わっていないにもかかわらず、なぜ再提出なのだろうか。
 まず、第一に、人権を救済するための機関は、必要である。国連は、裁判所などのほかに独立した人権救済機関がなければ、迅速かつ的確に人権救済をすることができないと考え、各国に対し、独立した人権救済機関をつくるよう働きかけているのだ。
 第二に、それでは、人権擁護法案は、人権を救済できる法案だろうか。問題はないのだろうか。
 問題点は、@独立性とAメディア規制の点であり、繰り返すが、それは、二〇〇二年の時と変わっていない。
 まず、独立性の点である。
 国連で決議されたパリ原則(一九九三年)は、人権救済機関が真に公権力から独立したものであることを求めている。公権力自体が人権侵害の主体となりうるからである。
 刑務所、拘置所、入国管理局などにおける多くの人権侵害が指摘されている。先日もUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が難民と認定したクルド系トルコ人をトルコに強制送還するという事件が起きた。ちなみに日本は、ヨーロッパの多くの国がクルド系トルコ人を数多く難民認定しているのに比し、ただの一人も難民認定をしていない。
 法務省が所管する人権救済機関を設置しても、その人権救済機関が内部の人権侵害事件を救済することはほとんど期待できない。
 法務大臣の諮問機関である行刑改革会議は、提言で、「行刑施設における被収容者の人権侵害に対し、公平かつ公正な救済を図るためには、矯正行政を所掌する法務省から不当な影響を受けることなく、独自に調査を実施した上で判断し、矯正行政をあずかる法務大臣に勧告を行うことのできる機関を設置することが必要不可欠である」とし、「このような観点からは、人権擁護推進審議会の答申を最大限尊重して設置されることとなる、公権力による人権侵害等を対象とした独立性を有する人権救済機関が、可及的速やかに設置されるべきであると考える」と述べている。
 法務省にこの人権救済機関を設置するということは、この提言の趣旨に明らかに反するものである。再上程される法案が、従来のまま、人権救済機関を法務省の所管とすることは、許されない。
 次に、メディア規制の問題があり、これまた許されない。
 メディアは、権力を監視しなければならない。しかし、行政権力がメディアを規制することになりかねないのが、この人権擁護法案である。
 いわゆるNHK問題に端的にあらわれたように、政治権力によるメディアへの介入は、いまほんとうに問題である。政治家が、放送より前の日に、個別具体的な放送番組について「公平中立にやってくれ」と言い、番組の大改変が起きたのである。
 これが放送の事前検閲にあたらずに、何が事前検閲といえるだろうか。
 メディアの状況は、三年前よりもはるかに悪くなっている。政治権力が、メディアを配下に置き、従わせるという傾向はより強まっている。
 東京地検の特捜部長が、記者に対して文書を配った。「(メディアが)本当に捜査機関のチェックをするというなら捜査後でなければし得ないはずです」と言っている部分は、とくに問題である。検察官が、マスコミの取材と報道は、捜査にとって有害だからやめろと言っているからである。捜査と報道は、ものすごい緊張関係をはらむことがある。法案は、取材を拒んでいるにもかかわらず、@つきまとい、待ち伏せ、A電話、ファクスによる送信を継続反復する行為を過剰取材として、特別救済(調停・仲裁、勧告、訴訟援助等。調停に出頭しなかった場合は過料の制裁)の対象としている。これだと、政治家の汚職などについて、メディアは切り込めなくなる。メディアの危機は、民主主義の危機である。
 国連に対して、国際社会に対して、恥じない人権救済機関をつくろうではないか。




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