福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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チェスのフィッシャーさん
〈『部落解放』2005年5月号〉

 

 ボビー・フィッシャーさんというチェスの元世界チャンピオンの人が、日本にいるという新聞記事を前に読んだ。「へぇっ、日本にいるのだ」と思っていたら、少し前に小さな記事で、外国人収容施設に収容されているのを知った。「なぜ?」と思っていたが、そのままにしていた。しかし、最近、大きな記事で、彼の収容の背景やアイスランド政府が外国人パスポートを出しているにもかかわらず、アイスランドへ行けないことが載っていた。
 「変。問題あり。何かできないか」と思い、弁護士に連絡し、入管局長に会いに行った。
 ボビー・フィッシャーさんは、一九七二年、東西対立のなかで、アメリカ対ソ連という形で、アメリカ人代表としてソ連のチェスの名手と対局し、世界チャンピオンになった人である。去年の七月から八カ月間、収容されていた。
 なぜ彼が収容されたのか、不可解なところがある。去年の七月、日本からフィリピンに出国しようとしたところ、彼の持っていた米国パスポートがすでに無効になっていたという理由で収容された。彼のパスポートは二〇〇七年まで有効のものであり、なぜ突然、無効になったかわからない。一九九二年に経済制裁下にあった旧ユーゴスラビアにおいてチェスをしたこと、またそのとき得た賞金の税金を払わなかったことがいま問題になっているという報道もあった。
 アメリカの大陪審が四月初めに開かれることが決まったが、そこで有罪となれば、日米両国で交わされている犯罪人引渡し条約にもとづいてアメリカへの引き渡しを要求されるのではないかという報道もあった。
 ところで、第三国であるアイスランドは、彼の引き受けを表明し、外国人パスポートを出し、飛行機のチケットも準備中であった。
 にもかかわらず、日本政府は、彼をアイスランドへ送らず、彼の国籍国である米国への送還を主張していた。
 入管局長に、アイスランドに帰してくれるよう要請する。法務省は、入管法五三条一項にもとづいて、国籍又は市民権の属する国に送還すると言って譲らない。
 困ったものだ。なぜ本人も希望し、しかも受け入れを表明しているアイスランドに送ってくれないのか。米国に行くか、アイスランドに行くかで、まったく違ってくる。
 「本人がアイスランドの市民権を得れば、アイスランドに行けるのですね」と聞くと、「その通りです」というのが入管局長の答え。
 それなら何とか早く市民権を出してもらおう。
 アイスランド大使館に行き、大使に話をする。大使は「すぐ本国に連絡する」と言ってくれる。アイスランドは、国会で年二回、市民権を付与する。だいぶ先のことである。今回、何とかフィッシャーさんのために早く出してもらえないか。
 法務省とのやり取りを再現し、翻訳してアイスランドに送る。文書をつくり、サインをして、これまたアイスランドの国会に送る。「アイスランドの市民権を与え、彼を自由にしてほしい」という私のコメントを、アイスランド国営放送はトップで放送してくれた。
 映画「シンドラーのリスト」ではないが、「早く市民権を出してくれ」という世界である。
 アイスランド国会は、すぐさま本会議で市民権を与えてくれた。うれしい。法務省と話をし、彼は収容所から出され、成田で、アイスランドへ向かう飛行機に乗った。成田空港まで見送りに行って、「よかったね」と言えた。
 この間、約一週間である。ホッとした。機敏に動いてくれたアイスランドやNGO、弁護士たちに大感謝である。
 でも思う。アイスランドという国は、アメリカから圧力をかけられてもフィッシャーさんを受け入れる。日本という国はどうなのだろうか。
 また、フィッシャーさんは、フィッシャーさんだからこそ収容所に閉じ込められたが、フィッシャーさんだからこそ市民権を得ることができた。
 無名の多くの外国人は、収容されたままで救いの手も差し伸べられていない。難民認定もきわめて少ない。外国人排除政策を変えたいものである。




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