福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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「被害」側からの視点を大切に
〈『部落解放』2006年2月号〉

 

 「日本から発せられる政治的メッセージが悪すぎる」。そう韓国や中国にいて思った。
 総理大臣は、靖国参拝に対して抗議を受けて、「わからない」を繰り返す。今回、ASEAN+3で、日中韓の首脳会談が、小泉首相の靖国参拝を理由に延期になった。今まで行われていたのに、延期になったことは大問題である。しかし、総理大臣は、「たいした問題ではない」と言う。
 前外務大臣は、「日本は中国に対し、ODAとして多額のお金を払ってきたのに、日本の安保理の常任理事国入りに中国は賛成しないなんて」という趣旨の発言をした。
 日本の政治のトップたちは、相手を怒らせるツボを心得ているのだろうか。みごとにはまっている。
 国家は個人ではない。ルソーが言うように、国家は人為的な構成物であり、当たり前だが、人格は持たない。だから、国と国とのことを個人に置き換えて表現するとおかしくなるのだが、あえて比喩として言ってみよう。
 離婚のケースを担当していると、妻が頭にきて傷つく夫の言葉というものがある。たとえば、「誰に食わせてもらっていると思っているのだ」といったものである。事実、夫の経済力に助けてもらっているかもしれないけれど、こんなセリフを言われたら妻は頭にくるのは当然だ。
 前外務大臣の言葉も、「金を払ってやったのに、恩に着ないでなんだ」というように聞こえないだろうか。
 親が子どもに対して、「誰に育ててもらったと思っているのだ」と言えば、子どもは反発するだろう。親に育ててもらい、心の中では感謝しているとしてもである。
 私は、日本の政治的リーダーたちの言動は、「かつて加害を行った国」の政治的リーダーとしてまったく適切でないと思う。
 弁護士として、セクシュアル・ハラスメントのケースを多く担当してきた。  加害者が一度被害者に謝ったとしよう。しかし、その後、加害者が、「たいしたことないのに、彼女は大げさにギャーギャー騒いでいる。もとから協調性がないなど、彼女には人格上問題があったのだ」「とんでもない女に引っかかった。ひどい女だ」などと言ったりすると、被害者のほうは、より傷が深くなるし、怒る。
 私は、日本のアジアの国々に対する態度を見ていると、時々このことを思い出す。
 セクシュアル・ハラスメントなどで加害者の男性が前述のようなひどい言葉を吐くのは、加害行為を「加害」と認識していないことと、相手をみくびっていることからである。しかし、このような「無理解」な態度は、問題をますますこじらせていく。相手の怒りを常にかきまわしていくからである。傷口は常に広げられていく。
 ドイツという国は、私の好きな国のひとつである。イラクに派兵せず、東西ドイツ統合後も苦労しながら社会の立て直しに努力をしている。
 ドイツに行ってドイツを見ていた。
 しかし、ポーランドのクラクフに行って、アウシュビッツからドイツを見るのでは、まったく印象が違ったのである。鉄道の線路がなくなる所に強制収容所があった。そこに立っていると、正直、「ドイツが怖い」と思った。それは、ドイツにいてドイツを見るときには味わったことのない感情だった。私は私で、同じ人物で、まったく変わらないのに、まったく違う印象を持った。当たり前だけれど、どちらの側から見るか、被害の側から見るかどうかによって、まったく違って見えることに、本当に驚いた。「被害」の側からの視点は必要だ。
 当たり前だが、日本は、アジアからお引っ越しはできない。私たちが、両親や祖父母や親類の人たちなどから戦争体験を聞いてきたように、アジアのそれぞれの国で、戦争を体験していない人たちも、親や祖父母やまわりの人たちなどから、戦争体験を聞いているのである。「体験」や「記憶」はそうやって引き継がれている。「昔の話をいつまでも言って」という問題ではないのである。日本から発せられる政治的メッセージを変えること、日本のなかで「歴史」にきちんと向き合う人を増やしていくこと、相互交流などを大至急やらないと、日本はますます多くのものを失っていくだろう。 




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