福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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教育と自由競争原理
〈『部落解放』2006年10月号〉

 

 教育基本法改悪法案は、憲法改悪と連動していること、教育の場で愛国心を押しつけるものであること、国が教育振興基本計画をつくり、自治体を縛っていくものであることなど、恐ろしいことが盛りこまれているが、自由競争原理の強化がますます起きることも大問題である。
 教育基本法を変えようとしている政治家の人たちの多くは、イギリスのサッチャーさんが行った教育改革を絶賛し、だからこそ日本の教育基本法を変えなくてはいけないと言う。
 最近読んだ安倍晋三さんの『美しい国へ』にも次のような記述が出てくる。
 「一九八〇年代、イギリスのサッチャー首相は、サッチャー改革と呼ばれたドラスティックな社会変革をおこなった。」
 「わたしたちはこの構造改革を、金融ビッグバンに象徴される、民営化と市場化の成功例ととらえているはずだ。しかしそればかりではなかった。実は、サッチャー首相は、イギリス人の精神、とりわけ若者の精神を鍛えなおすという、びっくりするような意識改革をおこなっているのである。それは、壮大な教育改革であった。」
 たしかに、ブレア首相は、前保守党政権の教育政策を引き継いだ面もある。
 しかし、重要なことは、一九九七年に労働党政権をつくるときの公約として、「わたしには公約が三つある。第一に教育、第二に教育、第三に教育である」と言わざるをえなかったということである。
 保守党政権のもとで、ナショナルテストと学校査察により序列化された学校は、教育困難校と成績優秀校に二極化する一方、教育困難校への施策は不足した。
 競争を強いられた学校は通学区域の廃止を受けて、問題児や教育困難児を「排除」する傾向があり、九〇年代、「排除」の急激な増加が犯罪に結びつき、社会問題となった。
 結局、新自由主義的政策では二極化が進み、国全体としての教育水準は向上しなかったといわれている。また、教育予算も減額され、予算不足の問題が生じた。
 そこで、ブレア政権は、競争主義と中央集権化により生起した問題の手直しを進める方法を採用した。広く社会全体の学力向上(国際競争力向上のための高度の知的能力獲得、および低学力層の底上げ)を目指すことにした。
 たとえば、保守党政権下での、「少数の優秀な生徒のため」の「国庫補助制度(パブリック・スクールなどの独立学校に優秀な生徒を国費で送り込む制度)」を廃止し、その経費で初等教育の三十人学級の実現をはかった。
 成功をおさめている学校には介入しないが、放っておくと学力向上に失敗する可能性の高い地域や階層をそのままにせず、予算配分にあたってもそのような地域や階層にテコ入れを行い、集中的に予算を配分するようにした。
 このほかフィンランドは、世界の学力テストで一番になったが、もっとも大きな理由は、底上げをはかり、いわゆる落ちこぼれをなくしていることにあるといわれている。
 教育の場面で、早々と切り捨てていく若者を増やすことは、社会をより不安定にし、かつもったいないことである。社会全体にとってもマイナスと考えられている。
 それなのになぜ日本において、何周遅れかの自由競争原理の強化礼賛の教育改革なのだろうか。
 教育のなかの格差、親の財布の大きさが子どもの未来を決めていき、底辺校は切り捨てられるという政策をとれば、社会のなかの階層も固定化していく。教育は、すでに日本の社会でそうなりつつあるけれども、「金持ちの再生産」となってしまう。
 未来をつくっていくのは、子どもたち。
 子どもたちが、「どうせもうだめだ」と思うような社会ではなく、また、未来に対して「希望の格差」があるような社会ではなく、すべての子どもたちをできるだけ応援していくことこそ、政治の役割である。
 その観点からもわたしは、教育基本法改悪法案に反対である。




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