福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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「命を殺す」政策
〈『部落解放』2006年11月号〉

 

 福祉や医療の現場から見ると「おかしいぞ」ということが急速に進んでいる。
 先日、多田富雄さんというお医者さんのご自宅にお邪魔した。彼は、元・国際免疫学会連合会長で、免疫学の専門家である。しかし、二〇〇一年に脳梗塞に倒れ、右半身麻痺などの後遺症で、なかなかうまくしゃべれない構音障害、嚥下障害となっている。
 彼がいま多くの人と取り組んでいるのは、リハビリテーションの規制の問題である。政府によって今年四月に行われた診療報酬改定で、リハビリ医療が日数で制限されるという、いわゆる「リハビリ打ち切り問題」である。
 いままでは必要に応じて保険診療が受けられたリハビリ医療が、一部の疾患を除き、原則として発症から最大一八〇日に制限される。まったくひどい話で、症状がどうであろうと、すべて一律機械的に上限日数で治療が打ち切られる。
 四月一日からこの制限が実施されたのだが、患者には直前まで周知されることはなかった。
 社会科学者の鶴見和子さんは去る七月、他界をされた。彼女は、一一年前に脳出血で左半身麻痺となったが、一〇年以上もリハビリ訓練を続け、精力的に著作活動を続けてきた。しかし、いままで月二回受けていたリハビリを、まず一回だけに制限された。その後は、打ち切りになった。多田さんによると、鶴見さんは医師から、この措置は小泉さんの政策ですと告げられたそうだ。その後間もなく鶴見さんはベッドから起き上がれなくなり、亡くなられた。精神的なショックも大きかったのではないだろうか。
 厚生労働省は、混乱を避けるために、異例の経過措置として、現在治療を受けているものに限って制限日数を発症からではなくて、四月一日から起算してもいいという苦肉の策を講じた。これもまた乱暴な話である。つまり、いままで何年もリハビリをやっていた人も、リハビリを始めて一日目の人も、とにかく一八〇日で打ち切りなのである。リハビリも治療もその人に応じて、個別性に着目してやっていかなければならないものである。それをぜんぶ上限一八〇日で一律に機械的にカットなのである。私のお会いした多田さんも自動的に一八〇日目でカット、打ち切りとなる。
 厚労省は今後、保険診療の上限を決めて、それ以上の給付を打ち切りにし、お金持ちだけ自由診療でどうぞということにしたいのだろう。しかし、これでは保険制度は崩壊し、お金のない人は、治療を受けられない、寝たきりになるということになってしまう。
 これまた先日、パーキンソン病の人たちに会った。パーキンソン病は、いままで難病扱いとされ、患者の自己負担の軽減を受けることができていたが、パーキンソン病を含めた難病の三つが難病の指定からはずれるかもしれないのだ。難病については、患者さんが病院へ来て、サンプル数がきちんと集まり、研究もできるようにとの考え方から(変な考え方だが)、特定疾患治療研究費補助として予算がつき、患者の自己負担の軽減がなされてきた。「希少性」、つまり数が少ないということが難病指定の要件の一つとなっている。ところが、パーキンソン病は、患者の数が五万人をこえたので、「希少性」があるとはいえず、自己負担の軽減をはずすというのだ。これも変な話だ。治療が必要で負担の軽減を受けていたのに、患者の数が一定をこえたら、はずすなんて本末転倒だ。治療のためにやっているのか、「研究」のためにやっているのかと言いたい。
 障害者の現場にも行った。サービスの一割負担の導入のためにみんな悲鳴を上げている。
 いま行われているのは、福祉や医療を削ることだけである。個々の人たちの生存権や尊厳は、まったく顧みられていない。ナチス・ドイツは障害のある人たちを虐殺した。いまの日本は、患者さんや障害のある人たちを「虐殺」はしていないかもしれないけれど、「放置」し、「緩慢な死」へ向かわせようとしているように思える。
 誰でも高齢者になり、誰でも難病や脳梗塞などになる可能性がある。みんなの、そして、自分の問題である。「命を殺す」政策はひどいと心から思う。




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