福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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防衛庁の省昇格法案のねらい
〈『部落解放』2006年12月号〉

 

 映画「出口のない海」を見た。
 第二次世界大戦中、戦況を「回天」させるという意味で作られた人間魚雷「回天」に乗り込む訓練を受けた大学生たちの話である。戦争は人が死ぬ可能性がある残酷なことだが、特攻隊やこの回天の場合は、一〇〇パーセント死ぬというきわめて残酷な話である。「片道切符」しかないのだ。
 この人間魚雷の生き残りである人に、この兵器の設計図を見せてもらったことがある。大人の人間一人がやっとはいれるような狭い、狭い、狭い空間の中。そこに押し込まれて、若者は何を思ったか。
 千鳥ヶ淵墓苑拡充検討委員会に、読売新聞の渡辺恒雄主筆に来てもらい、話を聞いたことがある。そのときの冒頭の話は、この人間魚雷の話であり、多くが餓死していった南方諸島の兵士の話だった。人間魚雷は、鍵を内側からかけるのではなく、外側からかけるという話をそのとき聞いた。外側からの鍵は、絶対に中からは開けられないということである。
 まさに人間弾丸。弾丸の中に人を入れて発射させるのである。
 いったいどれだけ効果があったのだろうか。発明した人間はきちんと裁かれてもいない。
 「父と暮せば」という素晴らしい映画を撮った黒木和雄監督の遺作ともいえる「紙屋悦子の青春」という映画も見た。この映画も、好きだった人が自分の親友を紹介し、結婚することを託して自分は特攻隊として死んでいってしまう映画である。自分は死ぬから、信頼のおける親友を女性に紹介し、お見合いをセットする。
 どれだけの命と人生が破壊されたかと何度でも怒りを感じる。
 政治は戦争をすることを決定できる。だからこそ、とことん政治を変えていくことが必要とされるのだと思う。
 「こんなことはたくさんだ」と人々は思い、日本国憲法を獲得した。
 いま、国会でヒシヒシと危機感を感じるが、あまり報道されていない防衛庁の省昇格法案について書いてみたい。この文章が活字化されるころにはすでに成立していたなんてことがないようにがんばりたい。
 秋の臨時国会には、防衛庁の省昇格法案が継続審議となっている。
 防衛庁を防衛省にランクアップさせようという法案である。
 防衛庁長官は「省」の大臣となり、「主任の大臣」としての権限を持つことになる。閣議を持つよう要求することや予算の要求・執行、米軍に対する物品の提供を、内閣総理大臣を通さないで単独でやれることになる。
 また、自衛隊法第八章の「雑則」にある国際平和協力業務などを第六章の「自衛隊の行動」に規定することも盛り込まれている。
 結局、自衛隊の本来の任務に、国際平和協力業務も含まれるということである。テロ特措法に基づく活動もイラク特措法に基づく活動も、この国際平和協力業務である。「雑則」にあったものが、「自衛隊の行動」にしっかり規定される。こうして着々と変化が起きていっている。
 この延長線上にあるものは、いま準備中の「自衛隊派遣恒久法案」である。いちいちテロ特措法やイラク特措法を作って自衛隊を海外に派遣するのではなく、特別な立法なくして自衛隊を海外に派遣できるようになる。
 ついにかという感じである。冗談ではない。
 防衛庁の省昇格法案の延長線上には、「五年以内に憲法を改正する」という安倍総理の憲法改悪がある。憲法九条のもと抑制的に働いてきた制約がバーンととれて、自由に何でもやろうとしているものの象徴として、省昇格法案がある。
 何といっても省になれば、省令が省独自で作れる。ますますフリーハンドになっていくだろう。
 諸外国では、省になっていると防衛庁は言う。
 でも言いたい。憲法九条がある国とない国とで違うのは当然ではないか。「花よりもなほ」の映画や『憲法九条を世界遺産に』(太田光・中沢新一著、集英社刊)の本などは、戦わない勇気を持ったやわらかなあり様に対する讃歌である。




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