福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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安心してお産ができない
〈『部落解放』2008年2月号〉

 

 この三カ月間、全国を駆け回った。聞こえてきたのは、命の悲鳴だった。地方財政の悪化、学校や病院の統廃合、医師がいなくなる、産婦人科医がいなくなる、そもそも雇用の場がない、農林水産業が切り捨てられている、店がない、道路はあってもその道路を走るバスに出す補助金がない……。命そのものが成り立っていかない。
 そんななかで、多くの所で多くの人たちから指摘されたのは、産婦人科医がいないという問題だった。北海道や東北の自治体議員から、とくに指摘があった。雪降る山道を何時間も車を走らせなければならない。妊婦さんは、検診に行くときに、車にハサミとタオルを持っていくという話を聞いた。実際、車の中で子どもが産まれたということも聞いた。産婦人科医が減っていること、偏在していること、また、厚生労働省が「集中化」という方針をとったために、身近な所でお産ができなくなっている。
 地方だけかと思っていたら、そうでもない。千葉県の自治体議員が言う。「娘が出産をしたんだけれど、里帰り出産ということができなくなっているんですよ。病院のベッドが満杯で引き受けてくれないんですよ」  奈良では、妊婦さんが亡くなった。奈良県でこのケースも含めた産婦人科医の医療体制について話を聞いた。この妊婦さんは、検診を受けておらず、未受診でもあった。私のまわりの妊婦の人たちは言う。「一回の検診は一万円。交通費も入れると高い」「月に何回も検診に行ったら、一月に五万円もかかってしまった」。厚生労働省は、一五回ほど検診を受けることが望ましいとして、五回分は補助すべしとしている。しかし、地方財政は厳しくなっていて、十分補助できていない。そして、若者のなかでも格差と貧困が拡大していて、未受診が増えている。
 「だれでも、どこでも、いつでも安心してお産ができる」という当たり前のことが、急速に失われていっている。命に格差が生まれているし、命が奪われていっている。
 そんななか、岩手県へ行ってきた。岩手県は面積が広く、山岳地形でもある。そんななかで、医師不足、産婦人科医不足に悩んできた。出産できる開業医が少なく、しかも、産婦人科医がいない地域ができてきた。たとえば、遠野市では、二〇〇二年から病院に産婦人科医がいなくなった。雪降るなか峠を越えて、妊婦さんは検診に通わなければならない。盛岡市までは車で七〇分、釜石市までは車で三〇分。しかし、この三〇分というのも、冬の雪道では一時間以上かかることがある。車の中で出産してしまう女性もいた。安心してお産ができないのである。
 その遠野市に、公設の助産院がこの一二月に開設した。愛称は「ねっと・ゆりかご」である。私が訪れた日も何人もの妊婦さんが来ていらっしゃった。一週間後が出産予定日だという妊婦さんのデータをはかり、そのデータをモバイルを使って遠隔地にある病院の産婦人科医に送る。医師の携帯電話にデータが届く。そして、音声と画面を通じて(Web会話)、妊婦さんとお医者さんは話をしている。すぐそばにいる助産師さんは、「少し足がむくんでいます」といった、データだけではわからないことを医者に伝え、話をしている。遠くへ無理して検診に行かなくても検診をしてもらえる。ニコニコした助産師さんと話をしていると、安心してくる。医者にアドバイスをもらうと、これまた安心する。
 もちろん産婦人科医を増やすことは急務である。しかし、すぐさまこの町に産婦人科医が来てくれるわけではない。そんななかで、公設助産院をつくり、サポートしてくれる九つの医療機関とネットワークを組み、安心してお産ができる仕組みをみんなの力を合わせてつくろうとしていた。
 市長にも会った。二人の助産師さんを市の職員として受け入れた。そして、なんとか安心してお産ができるよう「ねっと・ゆりかご」をつくったと話してくれた。大船渡病院で、このWeb会話をし、引き受けてくれている医師にも会った。助産師さんの活用も必要である。問題も課題も山積している。しかし、解決しようと努力している人たちにほんとうに励まされた。




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