福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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個人通報制度の批准を
〈『部落解放』2008年5月号〉

 

 オーストラリアで日本人観光客五人が有罪となった「メルボルン事件」(一九九二年)がある。
 五人は、オーストラリアに行く途中で立ち寄ったマレーシアでスーツケースを盗まれ、ガイドの人が用意した新しいスーツケースで、オーストラリアに向かった。しかし、何と入国審査のときに二重底になっていたスーツケースからヘロインが見つかった! 「知らない」という五人の主張を裁判所は認めず、懲役二〇年から一五年の刑が確定し、服役した。
 五人は、個人通報制度を利用し、国連へ申し立てを行った。オーストラリアは個人通報制度を批准しているので、申し立てができたのである。国内手続きを尽くしていないとして、申し立ては認められなかったが、人権救済のためにさまざまなことができることを示したケースであった。
 個人通報制度は、自由権規約に反する人権侵害を受けた人が、国際機関へ直接救済を申し立てる制度である。
 日本は、自由権規約は批准したが、選択議定書は批准していないので、日本における人権侵害の被害者には、この個人通報制度は認められていない。日本は、女性差別撤廃条約や拷問等禁止条約などの選択議定書も批准していない。
 個人通報制度を規定した、自由権規約の第一選択議定書を世界では一一一カ国が批准している。G8サミット参加国のなかで日本のみが個人通報制度を持っていない。
 お隣の韓国では、作品が「利敵行為」としてある画家が有罪判決を受けた。そのケースで個人通報が行われ、自由権規約委員会は、表現の自由を侵害するとして、韓国政府に対して補償と再発防止を勧告した。
 韓国は、人権救済機関をつくった点でも日本より一歩先んじているが、この個人通報制度についても日本をはるかに先んじている。
 現在、国連の事務総長は韓国人である。おーい、こんなことをやっていると日本は世界のなかで遅れてしまうよと言いたくなる。「人権」の問題では、日本は明らかに遅れている。
 自由権規約委員会の委員であり、委員長までつとめられた安藤仁介さんは、「なぜ日本が批准しないのか、わからない」とおっしゃっている。そのとおりである。安藤さんは、国連の委員会で委員長をつとめ、個人通報制度の審査にもあたってこられたわけであるから、他の国がほとんど批准し、問題なくやっているのになぜだろうと思われることはほんとうに理解できる。
 ちなみに、アメリカ合衆国は、選択議定書を批准していないけれども、米州機構にもとづく個人通報制度は採用している。日本は、きわめて例外的な国になっている。
 この選択議定書の批准をはばんでいるのは、いったい何なのだろうか。最高裁と法務省と警察の三つではないかという説があり、私はかつて最高裁に、「最高裁がはばんでいるという説がありますが、そうなのですか」と聞いたところ、「それはえん罪です」というのが答弁であった。
 では、法務省と警察が反対しているのだろうか。先日も国会で質問した。法務大臣は、「司法権の独立があり、四審制になったらおかしい」旨、答弁した。
 しかし、ほとんどの国も司法権の独立を保障しており、そして、同時に選択議定書を批准している。個人通報制度と司法権の独立は両立しているのであり、司法権の独立は、批准しない理由とはなりえない。
 そのことを質問すると、日本独自の文明があり、文化があるという答弁。司法権の独立と日本独自の文化は、どう関係するのだろうか。
 個人通報制度は、軍事政権のような国にこそ必要で、日本は必要ないという意見もある。しかし、民主主義の国のほとんどは批准しているのである。
 日本は、ICC(国際刑事裁判所)についての条約も批准した。国際的な枠組みで問題を解決する時代である。日本の法制度も変わっていっているし、変わっていくべきである。難民に対する態度も変わり、監獄法も大改正され、新しい法律になった。選択議定書の批准をみんなで勝ちとりたい。




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