福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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裁判員制度は大丈夫?
〈『部落解放』2008年7月号〉

 

 来年五月までに裁判員制度が始まる。
 「司法の民主化」といわれたが、捜査や司法をそのままにして、一般の人に、あなたも責任をになえといわれても、一般の人は、「そんなことに責任をとれない」と思うのではないだろうか。捜査の可視化も証拠開示も保障されておらず、代用監獄も廃止されていない。被害者や被害者の遺族は、検察官の隣に座り、検察官とは別に意見陳述・求刑をすることになった。
 アメリカの陪審制は、有罪か無罪かだけを決め、量刑は決めない。しかし、日本の裁判員は、量刑も決める。つまり、懲役何年、死刑ということも決める。日本の裁判員のほうが負担が重い。職業上の裁判官は、調書を読み込んでいるので、一般の人は、事実認定については、どうしても裁判官に太刀打ちできない、あるいはしにくいだろう。一般の人の意見は、より量刑を重くする方向に傾かないだろうか。
 また、映画「一二人の怒れる男たち」ではっきりわかるように、アメリカの陪審制では、有罪とするためには、全員一致である必要がある。しかし、日本の裁判員制度は、有罪とすることも量刑も多数決である。たとえば、自分は絶対にこの人はえん罪だと思っている。しかし、多数決で、その人が死刑になってしまったとする。そしたら、一生そのことを悔やんで、悔やんで、責任を感じて生きていくのではないだろうか。あるいは、この人は死刑にする必要はないと思ったとしても、多数決で死刑になれば、自分も裁判員として、加わったことになる。大変なことである。
 そして、もう一ついいたいことは、誤った思い込みを変える必要性である。誤った思い込みとして次の三つがある。第一に、犯罪はどんどん増えていて、とんでもないことになっている。とくに殺人の増加はひどい。第二に、少年は荒れていて、少年の非行は増え、凶悪化している。第三に、無期刑といっても一〇年か一五年で出てきている。
 これらは、事実とは、まったく違う。
 まず、第一に、殺人の件数は減ってきている。戦後でいちばん多いのは、みんなが牧歌的だったとなつかしむ映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のころである。一九五四年が三〇八一件。一九五五年が三〇六六件。そして、二〇〇七年は一一九九件である。殺人件数というのは、未遂も含んでいる。日本は、アメリカなどと比べたら、ダントツに殺人の少ない国である。
 第二に、少年の凶悪犯罪は、減ってきている。激減しているといってもいいくらいである。戦後において、少年の殺人の検挙人員がいちばん多いのは、一九五一年の四四八人である。二〇〇六年は七三人。なんと六分の一になっている。強盗の検挙人員についてもいちばん多いのは、一九四八年の三八七八人である。二〇〇六年は九一二人。四分の一になっている。
 「最近の少年は何を考えているかわからない。殺人は増えているし、厳罰化を」というのは、実は実態をふまえてはいないのである。そもそも日本において、第一で述べたように、殺人件数が減っているのは、若い人の殺人件数が減っているからである。一般的に、諸外国では、若い人の殺人件数は高い。しかし、日本はそうではなく、若い人の殺人件数が高い山をつくらない。若い人は外へ向かわず、むしろ内へ向かって、うつ病や自殺というかたちをとっているのではないだろうか。
 第三に、無期刑受刑者は増加している。二〇〇三年以降は毎年一〇〇人を超える増加をしており、一九八九年と比較すると二〇〇七年は一・九倍になっている。そして、仮釈放の門は狭くなっており、一九九六年、九九年、二〇〇〇年、二〇〇二年、二〇〇四年、二〇〇五年、二〇〇六年、二〇〇七年は一〇人にも満たない。一九九一年には三四人いたが、これまた仮釈放はされなくなっている。この一八年間の二二九人の仮釈放中、一五年以下で仮釈放されたものは一三人にすぎない。平均在所期間は三〇年である。「無期懲役といったって、一〇年か一五年で出てくるよ」ということはほとんどないのである。
 誤った思い込みを変えていかなければ、裁判員制度は、誤った方向に行ってしまうだろう。啓発がほんとうに必要である。




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