福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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秋葉原事件と派遣労働
〈『部落解放』2008年8月号〉

 

 秋葉原の殺人事件は、今の日本の深刻な問題の集約に思える。もちろんいかなる理由からも殺人事件は正当化はできない。個人的な問題もあるだろう。しかし、私は、なぜこのような問題が起きたかを掘りさげ、政策をとらなければ、今後もまた同じような事件が起きる危険性があると考える。もしこの社会がもう少し一人ひとりを大切にする社会だったら、この事件は起きなかったのではないか。地域格差の問題、進学と家族の問題、派遣社員という働かされ方、中途解約、故郷に帰っても仕事がない、行き場がない、孤独、絶望感、職場で仲間がつくれないことなど、今の問題が凝縮している。
 いままで、キヤノン、フルキャスト、日研総業、グッドウィルなどでユニオンを結成した多くの若者に会ってきた。具体的にどう働いているかも聞いてきた。
 日雇い派遣で働く人は、携帯メールで働く場所や条件などがきて、次の日の約束をする。昔は、日雇いは一日一万円といわれていたのに、いまは六〇〇〇円ちょっとであることが多い。明日、自分に仕事があるかどうかわからない。
 ある自動車工場で働く派遣工は、一〜三カ月で更新が行われ、細切れ雇用である。メーカーの都合で左右される。一時間一二〇〇円の時給制であり、日勤・夜勤を繰り返しても年収二五〇万円程度である。3DKに三人の寮生活であり、有料で、テレビなど備品はリース料がとられる。夏の暑いときに熱中症にかかり、倒れる人間が何人も出た。
 病気になって故郷に帰ることにしたが、手元には何も残らず、壊した体一つで帰らなければならなくなったという話を聞いたことがある。
 犯行の引き金になったとみられるのは、派遣契約の唐突な解約や「つなぎ」事件である。自分の「つなぎ」がロッカーにないことで、辞めさせられたと絶望感を深くしたといわれている。
 正社員を大量に解雇すれば大問題となるが、派遣社員の場合、たとえば来年までと期間が定めてあっても、景気の動向などで簡単に「中途解約」がなされている。
 「物」のように「納品」され、中途解約もされ、「使い捨て」られる。
 先日、議員会館で「秋葉原事件と派遣労働を考える」という集会があった。実際、同じ派遣会社で働いてきた人たちなどから具体的な発言があった。ある四〇代の男性はこう言った。「地方ではなかなか食べていける賃金や仕事が得られない。中高年の人たちも多く来ている」「東北や沖縄などから実に気のいい若者が多く来ている」「昔の出稼ぎは、冬場だけ来て、帰っていったけれど、いまは、帰っても仕事がなく、故郷に帰れない」
 一九八五年に労働者派遣法ができた。できたときは、派遣は「専門的業務」に限定されていた。しかし、一九九九年に法改正で原則自由化され、二〇〇三年、小泉政権において政令で禁止していた製造業での派遣が解禁された。その結果、製造現場で、偽装請負に加えて、派遣が拡大していった。
 日本の大企業の製造現場では、派遣労働者が重要な役割を果たすようになっている。しかし、いつも「代替可能」な、いつでも「切れる」細切れ雇用である。
 自分が明日働けるか、二カ月後働きつづけているか、六カ月後働きつづけているかわからない。雇用の不安は、心の不安につながっていく。いろんな工場を見学してきたが、工場のラインは労働者を「休ませない」ようにしているので、談笑したり、にっこりしたり、少し手を休めている労働者などいなかった。みんな一心不乱に働いている。そして、そんなに働きながら、雇用の安定はないのである。ユニオンの結成により変わってきたが、ユニオンなどがなければ、職場のなかで仲間をつくったり、連帯したりすることは至難の業だろう。働く人に広がる絶望感や孤独感。絶望が社会のなかに広がっていいことはない。
 厚生労働大臣も先日、派遣は専門職に限るべきだと発言した。そのとおり。いまこそ、派遣法の抜本改正をすべきときである。雇用の安定をいまこそやらなければ、社会はおかしくなったままである。




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