福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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オバマの就任演説
〈『部落解放』2009年3月号〉

 

 オバマ大統領の就任演説には、心打たれるものがあった。二〇〇万人もの人が集まっていることについては、「あまりにみんなが熱狂しているので、不安だ」という人もいるけれど。
 また、演説のなかで「テロとの戦い」を強調していることは間違っている。「先に倒れるのは君たちだ。私たちは君たちを打ち負かす」とすら言っている。イラクから撤退することはいいことだが、アフガニスタンへ増員をして、いったいどうするつもりなのだ。憎悪と反復の連鎖を拡大する武力行使が間違っていることは、イラク戦争をはじめ多くのことですでに立証済みのはずだ。
 大統領の演説には、謝罪はない。メイフラワー号に乗ってやってきた先人たちとその後の努力に言及し、西部開拓や奴隷労働を強いられた黒人たちの苦労については、しっかり指摘をしている。しかし、アメリカインディアンに対する謝罪も言及もない。
 また、ベトナム戦争については、「私たちのために、彼らは……(ベトナム戦争の)ケサンで戦い、命を落とした」としている。米兵のことについては述べても、ベトナム人の被害については言及はない。アメリカの「加害者」としての面はすっぽり落ちている。
 しかし、私は、それでもやっぱり心打たれるものがあったのだ。それは、一言でいって、「社会連帯」ということがメッセージとして伝わってくるからである。「富める者ばかり優遇する国家では国家の繁栄は長続きしない」と述べている。「わが国がよって立つのは国民の信念と決意である。堤防が決壊したとき、見知らぬ人をも助ける親切心、暗黒のときに、友人が職を失うのを見るよりは、自らの労働時間を削る無心の心である。……子どもを育てる親の意思でもある」
 「まっとうな賃金の仕事や、支払い可能な医療・福祉、尊厳をもった隠退生活を各家庭が見つけられるよう政府が支援するのかどうかだ」と述べている。新自由主義から社会民主主義へ。アメリカを一部の富裕層だけのギスギスした社会からあたたかい社会へ作り変えようとする意思を見る。
 演説だけだったら何だって言えるよと言う人もいるかもしれない。しかし、言ったら責任もついてくる。
 グリーン・ニューディールをはじめ雇用の創出についての言及もある。「原子力発電」の「げ」の字もない。「太陽光と風力を利用して車を動かし、工場を稼働させる」など、自然エネルギーを促進させるというビジョンを発表している。いままで自然エネルギーなどに消極的で、かつ、地球温暖化防止にも消極的だったアメリカが、政策転換をして、大きく足を踏み出そうとしている。自然エネルギーの促進に、ヨーロッパの国々は積極的なのに、日本の政府はきわめて消極的だ。日本は、世界の大きな流れのなかで、完全に置き去りにされるのではないか。
 そして、「私にまかせてください」とは言わない。「われわれに求められているのは、新しい責任の時代だ」と言う。よくいわれていることだが、主語が「私」ではなく「私たち」なのだ。それこそ民主主義だと思う。
 それと私は、これから、自由ということでも政策転換が行われることを期待する。アメリカは、日本と同様、犯罪は減っているにもかかわらず、受刑者が激増し、二〇〇万人以上になっている。九・一一テロを契機に「反テロ愛国法」ができ、裁判所の許可なく身体を拘束できる場合を認めた。マイケル・ムーア監督の「シッコ」という映画に出てくる「グアンタナモ収容所」は、イスラムなどの捕虜の人たちに拷問をしてきたといわれている。アメリカ合衆国憲法は泣いていると思っていた。オバマ大統領は、このグアンタナモ収容所の閉鎖を打ち出した。私は、自由や人権ということがこれから一歩でも進むことを望んでいる。
 今度は、日本の番だ。「年越し派遣村」に通ったが、そこで勇気ももらった。助け合い、支え合い、他人事ではない、連帯、共生ということを実感したからだ。
 社会連帯をキーワードに社会の仕組みを変えたいものだ。




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