福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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帰ってきた「父の旗」
〈『部落解放』2009年10月号〉

 

 今年八月、私のもとに、父の旗が六四年ぶりに戻ってきた。アメリカのアイオワ州に住むロバートさんが、戦後すぐ熊本で、どうも私の祖母から手に入れたようだ。アメリカに帰る記念にと入手したその旗は、一九四三年、父が一八歳で戦争に行くときに、学校の同級生たち七九人が、日章旗に寄せ書きをしてくれた大きなものである。「皇紀二六〇三年」と書いてあり、「祈福島行人君武運長久」とある。ロバートさんの手紙には、「私は硫黄島の戦いの生存者です。硫黄島では、日本人の軍人は熊本からきた人が多かったと聞きました」とある。
 硫黄島の生存者のロバートさんは、いま高齢のはずだ。戦後六四年間、この父の旗を大切に保管してくれていたが、家族に返したいと思い、わざわざ日本に送ってくれたのである。熊本市長に届いたその旗は、学校の同窓会が持ち主を捜してくれて、私の母に連絡がいき、私のもとへ届いた。
 ロバートさんの思い、熊本の市役所の人たちと同窓会の人たちの尽力によって、何とその旗は戻ってきたのである。
 その旗を広げてみると、この旗に見送られて戦争に行こうと思った父は、どんな気持ちだっただろうと思う。同級生七九人の署名があるが、みんな達筆である。子どものような若者たちも戦争に駆り出されたのである。
 父は、国内で訓練を受けていて、海外の戦地に赴くことはなく、終戦を迎える。去年一二月、八二歳で亡くなった。父が生きていてこの旗を見たら、どんな感慨をもっただろうか。戦後六四年経って、「戦争体験の風化」がいわれるけれども、この旗は、「戦争体験を風化させるな」と言いに、太平洋を渡って帰ってきたような気がする。
 私は、あらためて「戦争をしない社会をつくる」と決意を新たにしている。
 六月二三日の沖縄の慰霊式に出席したときも「決して戦争の傷は癒えていない」と痛感をした。「ひめゆりの塔」の慰霊式に出席していたとき、隣の男性は、本土からわざわざ帰って、出席していた。妹が亡くなったそうだ。悲しい顔をしていらした。生身に傷を負って、みんな生きている。広島と長崎の平和祈念式典に出席するときも、戦争による被害は筆舌に尽くしがたいと毎回、痛感する。
 私の父は、赤ん坊のときに日本に帰ってきているが、アメリカ生まれである。私の祖父母がアメリカに移民をして、父はアメリカで生まれ、祖父が病気で亡くなったため、祖母は子どもたちを連れて日本に帰ってきた。祖父の弟はアメリカに残り、第二次世界大戦中、日系人の強制収容所に入れられた。日系人は「敵性外国人」とされたのである。私のいとこが、サンフランシスコに行ったとき、祖父の弟に会ったと話してくれた。私もサンフランシスコに行ったとき、電話をしたが、残念ながらうまく会えなかった。
 戦争は、「敵」であれ「味方」であれ、そして、どこにいても甚大な被害を生ずる。
 私の家族に歴史と物語があるように、すべての人の家族に歴史と物語があるのではないか。政治の力によって人々の命が奪われていった、筆舌に尽くせないそれぞれの物語である。私たちは、政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起きないように全力を尽くすべきなのである。
 来年五月、国民投票法が施行される。衆議院と参議院の両方に設置されている憲法審査会を動かして、憲法改悪案づくりがされないようにする必要がある。インド洋から自衛隊は撤退すべきである。そして、いまこそ非核三原則を堅持すべきだ。最近、ニカラグア出身のデスコト国連総会議長と会談する機会があった。彼の長崎の平和祈念式典でのあいさつは、ほんとうに心に残るものだった。「日本と広島市長、長崎市長は、核保有国に対して核廃絶を求める道義的権威がある」とスピーチされた。オバマ大統領は、核の先制不使用を宣言しようとしているが、日本政府は反対しているといわれている。国際社会のなかで、日本が「アメリカの核の傘」に守られながら、核廃絶を言っても説得力がないのではないか。いまこそ日本は、核保有国の核廃絶を言い、核廃絶の先頭に立つべきである。一緒にがんばりましょう。




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