福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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自殺をなくすために
〈『部落解放』2009年12月号〉

 

 知り合いの弁護士に話を聞いた。
 ずーっと依頼者だった中小企業の社長さんが自殺をしてしまった。その人の妻から悲鳴のような電話がかかってきて知ったと。家族に生命保険金を残すための自殺ではなかったかとその弁護士は言う。努力して、努力して、会社の景気や業績を良くしようとしてきて、良くなったときもあったが、最近、またどうしても業績が悪くなったのだとも聞いた。
 今日もある集まりのあいさつで、「自殺対策担当で自殺をなくすようがんばりたい」とみんなの前で話をしたら、あとで若い男性がすーっと寄ってきて、私にこう言ってくれた。「私の父も自殺をしました。どうかがんばってください」と。
 今年のはじめ、「年越し派遣村」の集会で、ある男性が発言をした。「自殺をしようとある場所に向かっている途中、ある駅でテレビを偶然見ていたら、テレビが『派遣村』のことを報道していました。足が、派遣村に向かいました。具合が悪くて、熱があったので、病院に連れていってもらいました。私は、ある企業で働いていたけれど、派閥抗争に負けて、会社を辞めました。すると、だんだん家族がうまくいかなくなって、離婚をしてしまって、ついに、一人ぼっちになってしまったんです。仕事もうまくいかなくて、死のうと思ったんですが、命を救ってもらいました。今度は、私が人の命を救いたいと思います」と。
 失職、家族との不和、孤独、病気、経済的な困窮、過労……。いろんなことが重なって、人は糸がぷちっと切れるように、死に追い込まれるような気がする。逆にいうと、いろんなネットワークなど何かがあれば、死にいたるまで追い詰められずに済むともいえる。「派遣村」の村長だった湯浅誠さんは、今の社会を「すべり台社会」と言う。ひっかからずに、すーっと落ちていってしまうと。いろんな形のネットワーク、支え、制度があれば、人はそこでまた立ち直れるし、生きていきやすくなる。
 自殺の問題に取り組むNGO「ライフリンク」の清水康之さんに大学の授業に来てもらったことがある。ビデオの上映から授業が始まった。東京マラソンの様子が延々と映し出される。カメラを固定し、ビルの上から人々を撮影している。東京マラソンで走る人が三万人。そして、年間に自殺をする人が三万人。清水さんは、年間に自殺する人が三万人いるということがいったいどういうことなのか体感してほしいと話をした。たしかに「年間の自殺者は三万人以上」と一言でいうけれど、そのビデオは長時間、一人ひとりが走るのを映していて、その三万人の一人ひとりに圧倒される気がした。一人ひとりの人生。一人ひとりの個性。三万人って、これだけの人なのだと。
 十数年前に、年間二万人の自殺者が三万人になり、それからずっと、自殺者は三万人台となっている。しかも今年の前半はとくに増えて、今年は三万人台の後半になってしまうのではとさえいわれている。明らかに、景気の悪化と連動している。
 私は、内閣府で自殺対策の担当もしている。何とか直接生きる支援につながる施策をして、自殺に追い込まれる人を減らしたい、なくしたいと考えている。かつて秋田県のある市が、自殺率が高かったため、いろいろ取り組んでいるという話を聞いたことがある。しかし、その市には弁護士が一人もいないのだ。多重債務や破産について相談できる場所や人がいたら、自殺をもっと減らすことができるのではないかと感じた。巡回法律相談などできないか。心の健康相談では、保健師さんなどの役割も大きい。
 今回、政府は緊急雇用対策をまとめた。そのなかに、自殺対策担当として入れてもらったものがある。「ハローワークの協力を得て開設する相談窓口における地域自殺対策緊急強化基金等を活用した求職者等に対する心の健康相談、生活支援相談等の実施」というのが「ワンストップ・サービス」に入った。ハローワークに来た人たちが、そこでさまざまな相談が受けられるようにして、そこに心の健康相談、生活支援相談も盛り込んだのである。具体的な大きな一歩。具体的にネットワークを張ることで「生きる支援」がしたい。それがとりもなおさず、自殺に追い込まれる人をなくす第一歩である。社会のなかで希望が広がるよう地道にやっていきたい。




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