福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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空襲被害者に補償を
〈『部落解放』2011年10月号〉

 

 全国をまわっていると、各地に空襲の被害があることを痛感する。東京大空襲、大阪大空襲、福岡大空襲、名古屋大空襲、横浜大空襲、長岡大空襲、富山大空襲、沖縄の空襲……。
 「ここでこんな空襲があったんですよ。このあたりは、もう焼け野原だったんですよ」という話を聞く。
 その空襲の被害者の人たちが裁判を起こした。
 二〇〇七年に続き、二〇〇八年三月一〇日には、東京大空襲賠償の第二次集団提訴が行なわれた。
 狭山裁判の弁護団長である中山武敏弁護士や多くの仲間や知り合いの人たちが、この裁判のために、問題解決のために、会をつくり、ほんとうに努力をしている。また、国会のなかでも空襲の被害者の人たちの問題に取り組む議員連盟もできた。
 先日の八月一四日にも東京で開かれた集会に参加した。名古屋空襲で障害を負った杉山千佐子さんが会長であり、あいさつをされた。彼女は九〇歳代である。
 空襲の被害者の人たちは、何の補償も援助もまったく受けていない。日本は、戦争の被害の補償は軍人・軍属や国・軍の役務を遂行していた場合に限られている。戦後、この費用は合計で五五兆円になる。しかし、空襲の被害者に対しては、ゼロなのである。
 一般市民の戦争被害に対する補償は、なされてこなかった。原爆被爆者の補償やシベリア抑留による被害や中国残留孤児への援助などが、当事者の人たちの涙ぐましい努力でようやく少しずつ実現してきたが、一般の市民の人たちの被害、空襲による被害は、何の補償もされてこなかったのである。
 わたしたちは、空襲の話を聞いても、何となく仕方ないと思わせられてきたのではないか。戦争だから、仕方ない。みんなが耐え忍ぶべき被害であり、あまりにたくさんの被害があるので仕方ないと。
 しかし、あまりに変だ。
 軍人・軍属の人たちは、補償を受け、遺族も補償を受ける。しかも大将ほど補償が大きい。
 一般の人は、何もない。
 もちろん軍人・軍属として、戦地で尊い命を失い、さまざまな被害を受けた人たちの無念さと悲しさと苦労は、計り知れないものがある。わたしの父は特攻隊の生き残りなので、「生きるか、死ぬか」というぎりぎりの瀬戸際のところで、生きなくてはならなかった人たちの苦労は、他人事ではない。
 先日も新藤兼人監督の「一枚のハガキ」という映画を見た。兵隊さんとして戦争に行き、白木の箱で帰ってくる人たちの人生と、残された家族の大変さは心に突き刺さってきた。
 しかし、杉山さんをはじめ空襲で被害を受けた人たちも、当たり前だが、戦争被害者である。
 空襲による被害者は、東京新聞によると、全国で五五万九一九七人、東京で一一万六九五九人とされている。それらの人たちも戦争被害者である。親を空襲で失って、子どもとしてたいへん苦労の多い人生を送ったという話を聞いたことがある。
 欧米諸国の戦争犠牲者補償制度には、「国民平等主義」と「内外人平等主義」という二つの特色があるといわれている。ドイツの例などがよく知られているが、ドイツにおいて戦争による一般市民の物的損害が補償の対象になったのは、一八七〇年から一八七一年にかけての普仏戦争からである。第二次世界大戦による物的損害の補償もなされている。
 日本には、国民平等主義も内外人平等主義もない。
 国家総動員法によって、国民はみんな、何らかのかたちで戦争に協力させられていたのに、なぜこんな差別が生まれているのか。
 原発は安全だということも、戦争の補償は軍人・軍属だけだということも、戦後の日本のある時期からみんなが思いこまされていることにすぎないのではないか。こんな戦後の「当たり前」を変えていきたい。




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