福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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若者の困難に対応を
〈『部落解放』2012年3月号〉

 

 毎日新聞の二〇一一年一二月一六日付に、湯浅誠さんが原稿を書いていた。ソウル新市長のことである。
 「深刻化する住宅難、減少し続ける働き口、憂いが深まる伝統市場や路地商圏、競争力が低下している自営業や中小企業、増える非正規職。そのどれもが、新しい解決策を求めています」
 これが新市長の就任あいさつ文の一節。「一%が九九%を支配する、勝者が独占し多数が不幸になるという現象は公正な社会ではありません。過度な競争で皆が疲れ弱っていく生活は、公平な世界ではありません」と続く。
 新市長が実現した公約は大学の授業料を半額にしたことである。授業料の負担にたえられず、大学を辞めたり、疲弊していく若者も多い。そういえば、韓国の人気俳優グンソクさんのインタビュー記事を『週刊朝日』で読んだが、彼が母校に寄付をしたので年間約四〇人の学生が通学可能になったそうだ。
 私が心強く思うことは、社会の問題点を解決するべく真正面から取り組み、そのことが支持を受けているということである。
 私が尊敬する教師の人の本を読んでいたら、家が破産したけれども経済的に援助してくれる人がいて、師範学校を出ることができたとある。調べてみると、戦前、師範学校は授業料が無料なのである。もちろん「国家のための教師」をつくったという面もあるだろうが、私はこの授業料が無料というのに感激した。戦前は、問題点もいっぱいあったが、優秀だけれども貧しい青年を教師などにすることができる仕組みはあったのである。
 いまはどうだろうか? 医師にしろ、法律家にしろ、先生にしろ、なるにはお金がかかる。医師は、私立大学に行くにはお金がかかるし、司法試験を受けるにはロースクールに行かなければならず、これまたお金がかかる。
 大学などに行くのにお金がかかり、中退する人も増加している。大学を出たからといって、就職が決まらない人も多い。非正規雇用の人は四割になろうとし、年収二〇〇万円以下の人は一一〇〇万人にも達している。高齢者も中高年も貧困の問題をかかえているけれども、これから社会に出て一歩を踏み出そうとする若者が大きな困難をかかえているのである。
 労働法制の規制を強化すること、教育にお金がかからないようにすることこそ必要だと思う。これがなかなか進まない。私が司法試験に受かって司法修習生になったときは、実務修習中ということで給料が出た。しかし、今度から出ないことになった。職務専念義務があるからアルバイトはできないし、借金が増えていくことになる。貧しい家の子どもは、法律家になることを早い段階で断念していくのではないか。また、そうなることは司法の場にとっても大きなマイナスである。金持ちの家の子どもしか法律家になれないということに仮になれば、裁判だって、ゆがんでいくのではないだろうか。
 いま、ほんとうに大事なことは、格差を是正し、所得の再分配をし、貧困をなくしていくことであり、厳しい労働条件の改善をすることであり、食べていけるようにすることであり、すべての子どもが望めば自分の受けたい教育を受けられるようにすることである。
 では、消費税増税やTPP参加はどうだろうか。少なくとも働く人たちに打撃を与え、生活困窮者にさらに打撃を与えるものである。原発予算や防衛予算や思いやり予算には、もっともっとメスが入れられるべきである。外環道路建設などを進めて莫大な金を使おうとしながら、なぜ消費税増税なのか。いまの政治は、社会の問題に対して反対の処方箋を出しているのではないか。
 ところで、と思う。ソウル市長は、雇用や教育をなんとかしてくれという声に押され、二〇代から四〇代の人たちの支持を得て当選した。他方、日本では、公共サービスをカットし、教育基本条例をつくろうとすることに喝采が送られている。教育に行政が介入し、先生の思想良心の自由を侵害し、職場に査定で必ず五%のD評価の先生をつくり、先生いじめをしてどうするのだ。日本の政治のほうが危機だと思う。




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