福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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自民党の憲法改正草案
〈『部落解放』2012年7月号〉

 

 いま、衆議院と参議院の両方で、憲法審査会が動いている。憲法改正のための国民投票法は、安倍内閣のときに衆議院で強行採決された。その法律にもとづいて、去年、憲法審査会が設置をされた。憲法改正発議の動きがここから出てこないように、注目をお願いしたい。
 緊急事態宣言ができる条項が、日本国憲法にないことが問題だとか、憲法改正の発議の国会の要件を、三分の二から過半数に変えるべきだという議論が出ている。
 憲法に緊急事態宣言の条文がないことで、今回の復興支援が遅れたということはない。
 被災地で、被災地にこそ日本国憲法をということを聞いたことがある。生存権、幸福追求権などが侵害されているのだから、いまこそ憲法価値の実現をしなければならない。そんなときに、なぜ憲法改正なのかとほんとうに思う。
 そんななか、先日、自民党が日本国憲法改正草案を発表した。二〇〇五年にも自民党は、新憲法草案を発表している。わたしは、そのなかみに危機感を感じて、『憲法は誰のもの』(明石書店刊)を書いた。そのときの案よりも、今回発表されたものは、さらに問題があると考える。
 戦争をしないと定めた憲法九条を変えて、九条の二で、国防軍を保持すると定める。国防軍は、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」としている。つまり、戦争ができるということであり、また、「公の秩序を維持」する活動ができるのであるから、デモの鎮圧に国防軍が出てくることが可能になるのではないか。
 そして、わたしが危機感を感じるのは、この戦争ができる国というだけではなく、基本的人権の考え方である。
 前文に、「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守」るとある。また、新たに「国民の責務」という条文が作られる。「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」とある。ところで、「公益及び公の秩序」というのは、非常に抽象的である。「公の秩序」って何だろう。しかも、この憲法案は、国民は「常に公益及び公の秩序に反してはならない」としている。わたしたちは、常に公の秩序に反してはならないのである。
 また、日本国憲法では「国民は、個人として尊重される」とあるのが、改正草案では「国民は、人として尊重される」となっている。そして、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない」としている。つまり、基本的人権は、これまた何度も出てくる抽象的な言葉である「公益及び公の秩序」によっていくらでも制限ができるのである。
 基本的人権は、他の人権によって制限されることはある。たとえば、知る権利がプライバシー権によって制限を受けることがある。しかし、まったく抽象的で曖昧な、どうとでも解釈することができる「公益及び公の秩序」によって制限できるとしたら、基本的人権はとてつもなく弱いものとなる。「公益」によって制限できるとしたら、公害反対運動などはどうなるのだろう。「公の秩序」によって制限できるとなったら、ビラの配布やデモは制限を受けることになりはしないだろうか。
 この「公益及び公の秩序」は、繰り返し出てくる。「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」としている。これでは、一歩間違うと、治安維持法みたいなものができてしまうのではないか。
 国旗・国歌を憲法に定め、政教分離を緩め、外国人の選挙権を明確に否定し、公務員の労働基本権の制限も憲法に盛り込んでいる。
 基本的人権がきわめて弱くなる憲法改正草案である。
 いまこそ、日本国憲法の価値を実現し、憲法を生かしていくことが必要であると思う。




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