福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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映画「少年H」を見て
〈『部落解放』2013年10月号〉

 

 「少年H」の映画を見た。妹尾河童さんの原作を映画化したもの。神戸市に住む少年の立場から、戦争に突き進む社会、学校、空襲、敗戦、その後を描いている。
 おとうさんは洋服の仕立屋さん。居留地に住む外国人の人たちの服の仕立ても行っている。H(はじめ君)は、おかあさんが作ってくれた「H」というイニシャルを付けたセーターを着ているので、級友たちに「H」と呼ばれている。Hの両親はクリスチャン。家族で教会に通っている。クリスチャンであることから、まわりから疎まれているところがある。
 おとうさんは、権威主義的な人ではなく、Hに「自分の眼で見て、自分の耳で聞いて、自分で考えて生きるように」しっかり話をする。子どもに自分の考え方をきちんと語り、軍国熱に浮かれているまわりの人たちと不要に争わないで済ますにはどうしたらいいかということまで、正直に家族のなかで話をしている。のびのび育ったHは、学校で思ったことを発言するので殴られたりする。
 空襲の場面は本当に心が痛む。女性たちは、バケツリレーなどで日ごろ訓練をするが、雨あられと降ってくる爆弾のもとで、すさまじい火の海となり、人々は逃げまどい、多くの死者が出る。焼け野原のなかを歩くHの父親。敗戦を機に一八〇度変わる教官や大人たち。不信感をもつH。Hは働きだし、看板屋として、フェニックスの絵を描く。
 つくづく戦争は嫌だと、見ながら思った。近所のうどん屋のにいちゃんは、思想犯として逮捕され、Hがアメリカに帰った人からもらった絵はがきが原因で、おとうさんは、アメリカ人と意を通じているスパイの疑惑で、拷問さえ受ける。当時、そのようなことは多数起こっている。メディアは大本営発表で、「国のために人をささげる」ための教育が行われ、一挙手一投足をチェックし合い、表現の自由がない。そして、庶民は、殺され、焼け出され、すべてを失うわけだから、とんでもない。
 今、政権は、集団的自衛権の行使を合憲とし、アメリカとともに世界で戦争ができるようにしようとしているのだから、「戦争をする国」にしてはならないという声をもっともっと強めていかなければと、しみじみ切実に思った。
 『ドイツの歴史〔現代史〕―ドイツ高校歴史教科書』(明石書店刊)という本がある。ドイツの高校の教科書が、日本語で読める。麻生副総理のナチスの手口に学べ発言をきっかけに、どんな手口だったのか、あらためて読み返してみた。
 ヒトラーが首相になるのは一九三三年一月三〇日。国会議事堂を放火し、炎上させるのが二月二七日。緊急令を出させ、ドイツ共産党を放火犯に仕立て上げ、大量に逮捕、社会民主党も緊急令により逮捕や活動禁止に脅かされつづける。三月二四日、国会の立法権を政府に委譲する授権法が成立。ワイマール憲法は空洞化し、停止する。短い期間に突破されている。この教科書には、授権法に命がけで反対する社民党の演説、ヒトラーの演説など細かく載っている。
 写真のなかで、私がショックを受けたのは、一九三三年のミュンヘンの街頭での写真。あるユダヤ人の弁護士は、法治国家ドイツを信じて、警察に救助を求めた。しかし、親衛隊(SS)にズボンの下部を切り取られ、見せしめのため通りを歩かされている。男性が首から下げられている板には、「私は二度と警察に苦情を申し立てません」とある。
 法の支配が破壊され、基本的人権や命が奪われている。ワイマール憲法の停止とはそういうことだ。日本で、日本国憲法下で、集団的自衛権の行使を合憲とすることは、まさに日本国憲法の破壊であり、停止である。憲法を停止させてはならない。法の支配を破壊してはならない。破壊させてはならない。今の政権がやろうとしていることは、法の支配の破壊である。
 「少年H」の映画では、家族や人々の絆に励まされた。「戦争と一人の女」「最愛の大地」など戦争をテーマにした映画もある。戦争をする社会とはどういう社会なのか、一緒に考えたい。




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