福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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戦時性暴力としての「慰安婦」
〈『部落解放』2014年11月号〉

 

 私が、金学順さんに会ったのは、一九九一年八月一四日のことです。
  それまでにも、「自分はいわゆる慰安婦だった」と経験を話してくれた女性はいました。しかし、名乗りを上げることができませんでした。儒教の厳しい韓国において、いや、他の国でも、性暴力について声を上げることはきわめて困難でしたし、いまでも困難です。たくさんの女性たちの話を聞いてきました。名乗りを上げ、自分の体験を話すことがいかに困難か。だからこそ、彼女たち一人ひとりの体験や言葉に真摯に耳を傾けてほしいと思います。
 金学順さんが記者会見をしたのは、一九九一年八月一四日でした。初めて、名乗りを上げることができたのです。戦後補償の裁判のなかで、いわゆる慰安婦とされた人たちも一緒に裁判を起こしたのは、一九九一年一二月です。
 金学順さんは、司法記者クラブで行った記者会見で、「私の青春を返してほしい」と言いました。青春を返すことなどできない。私は、その言葉を聞きながら、ほんとうに胸が詰まりました。
 「慰安婦」とされた人たちは、日本、朝鮮半島、中国、台湾、インドネシア、フィリピン、オランダなど、さまざまな国、領域にわたっています。二〇代の人たちもいますが、多くは一〇代の女の子たちです。
 朝鮮半島の女の子たちは、多くは中国に連れていかれています。言葉も地理もわからないなかで、戦場の真っただ中で、あるいは戦場の近くで、「慰安婦」にさせられ、毎日、何人、何十人という人たちの相手を強いられたわけです。逃げることは、ほぼ不可能です。慰安婦問題の本質は、戦争における女性に対する性暴力です。
 そして、戦争遂行のなかで、軍の関与なくして、慰安婦制度はありえません。
 「慰安婦」の人たちが告発をしたことで、私たちは、戦争のなかの性暴力をあらためて知り、理解し、それをなくしていくことを、多くの人たちが決意したのではないでしょうか。軍隊のなかでのレイプの問題や軍隊の外でのレイプの問題を、多くの人たちが問題にしています。
 先日、朝日新聞は日本軍慰安婦問題について、吉田清治さんによる強制連行の証言は虚偽として記事を取り消しました。これに対するネガティブキャンペーンは凄まじいものです。吉田清治さんの証言が虚偽、よって朝日新聞の報道が虚偽、よって慰安婦問題がなかったかのようなキャンペーンがなされています。
 彼女たちが命がけで告発したことを、貶めてはなりません。
 セクシュアルハラスメントを含めた性暴力を、女性たちが告発したときに、女性が嘘をついている、あるいはその女性の私生活はどうかなど、女性たちへのセカンドレイプが起きることがあります。いま起きていることは、セカンドレイプのようにも思えます。
 河野官房長官談話は、次のように言っています。「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。」「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」  オランダ人女性を強制連行して「慰安婦」としたスマラン事件、中国桂林での強制連行を認定した東京裁判判決などでは、強制連行は立証されています。そして、だましたり、人身売買、強制連行なども、女性たちを慰安婦という制度のなかに入れるための手段であるということです。ひとたびその制度のなかに入らされてしまえば、ほとんど逃げることは不可能であり、本人たちの意思に反して、「慰安婦」を強制される生活を強要されたのです。
 「民間業者が連れ歩いただけだ」という一九九〇年の政府答弁のところに戻すかのような言説がなされていることは、私には、あの戦争の問題点をまたひとつ覆い隠そうとしているかのように思えます。
 朝日新聞のバッシングも、戦争反対、秘密保護法反対、集団的自衛権の行使反対を訴えるメディアを叩こうとしているのではないでしょうか。歴史認識を変えようとすることは、新たな戦争の準備のようにも思えます。私たちは、過去を直視し、未来をつくっていかなければならないと考えます。




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