福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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ビキニの水爆実験と被曝
〈『部落解放』2014年12月号〉

 

 一九五四年にビキニ環礁で水爆の核実験があり、第五福竜丸が被曝したことは広く知られている。このことをきっかけに署名運動が起こり、日本で反核運動が活発になった。
 ところで、この第五福竜丸以外に約一〇〇〇隻、そして二万人の船員が被曝したことは、あまり知られてこなかった。高知県でこの問題に取り組んできた山下正寿さんが、厚生労働省に対して情報公開請求をして、去年の一一月に情報が開示された。一九九〇年代に外務省から情報公開されたものもある。
 資料は、六〇年前、アメリカには提供された。しかし、日本においては、国会で質問されても「ありません」と答えている。ひどい話である。
 高知をはじめさまざまなところで、市民がヒアリングをしている。そこで明らかになったのは、白血病、ガンなどによって多くの船員が病死しているということである。
 二〇一三年にアメリカ公文書館から出た資料によると、船体の放射線基準値を超えた船は五隻となっている。また、沖縄のビキニ事件として、一九五三年から六〇年まで八年間にわたり、年間八回ずつ被災海域で操業していて被曝したマグロ漁船、銀嶺丸と大鵬丸の乗組員六八人のうち、民間調査の結果、一七人が四〇代半ばから五〇代で死亡し、しかもその死因はガンがもっとも多くて一一人である。被害がほんとうに出ている。
 一九五四年五月二七日に、岩手県衛生部長は、厚生省医務局長に対して、神通川丸の原爆実験調査について報告書を出している。厚生省医務局は、総合所見として、次のように述べている。
 「乗組員四九名の健康診断の結果、放射能症状を疑わせる者が七名おり、他に精密検査を要すると思われる者が七名で、これ等は今後長期に亘る観察が必要と思われる。」
 しかし、国会で質問したときに厚生労働省が認めたように、長期の観察をしていない。フォローをしなかったのである。政府は、第五福竜丸以外を見捨てたのである。
 アメリカは当時、見舞金を払い、一七〇人の人たちは治療費を受け取った。検査や調査の結果が当時発表されていたら、当事者の救済も、人々の被曝についての意識もまったく変わっていただろう。
 現在、開示されている資料のなかで、墨塗りをされているものがある。船員の血液や尿などの検査結果である。「これは開示すべきである」と参議院厚生労働委員会で質問した。政府は「承知いたしました」と答弁した。数字が出てきたら、きちんと分析して、被曝を検証していきたい。いまからでも厚生労働省は、チームをつくり、資料を集め、検証すべきではないか。
 アメリカ側も、日本側も、ビキニ環礁の水爆実験の被曝の結果は、第五福竜丸に矮小化して、拡大させないようにしたのではないか。情報も開示せず、フォローアップも一切しなかった。被曝の実態が大きく広がれば、核実験に対する反対運動が強まってしまうと考えたのだろう。
 一九五四年という年はきわめて重要な年である。東海村に原子力の火が灯るのが一九五七年。広島、長崎の経験をもつ日本は、核兵器には反対だが、核の平和利用には賛成というように、大きく舵を切っていく。核兵器も原発も核という同じものなのに、平和利用という言葉にだまされて、原発推進がなされていく。原発推進に、被曝の実態が広がることは望ましくなかったのではないか。だからこそ、被曝の実態を大きく広報しなかったのだと思う。
 ビキニの被曝の問題にこれほどこだわるのは、歴史のなかの事実を明らかにしなければならない、現在も、過去および現在の被曝者の方たちに対して救済をすべきだと考えるからである。そして、ビキニの問題と、現在進行している東京電力福島第一原発事故の被曝の問題は直結している。
 ビキニ環礁の被曝の問題を矮小化し、第五福竜丸以外は大したことないとしてきたことが、いままさに福島東電原発事故の被曝の問題で進行しているのではないだろうか。福島以外のところの被曝の問題は大したことがない、いや福島のなかですらも、だんだん大したことないとされていくのではないだろうか。
 私たちは、低線量被曝の問題に対して、これからもっともっと取り組まなければならないと考える。そのためにも、当時の調査結果を分析する必要がある。
 広島、長崎、ビキニと続き、私たちは、それらの問題と同時に、原発事故の被曝の問題をきちんと解決しなければならないと考える。




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