福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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「思う存分生きなさい」
〈『部落解放』2018年2月号〉

 

 母が一二月八日に亡くなった。ほんとうに優しい母だった。母は、私が二〇歳のころ、こう言ってくれた。
 「みずほちゃん、あなたはどこか骨のある女だから、思う存分生きていきなさいよ」と。
 当時、社会のなかで望まれる女の子像と、私が生きていきたいものとは違っていた。私は、私らしく生きたいと思うが、それがどんな形なのか、あまりよくわからなかった。「どうしてそんなことを考えるの?」と人に聞かれながら、どうもうまく答えられない。そんなとき、母の言葉は背中を押してくれた。
 社会のなか、世間では、いろいろ言う人がいるかもしれない。しかし、母は、親は、支持してくれる。どこまでも遠くへ歩いていける気がする。母の言葉によってまっすぐに肯定され、そのまま歩いていけばよかった。私の元気のもとは、何といってもこの母の言葉であり、愛情である。私が何かをするから、私が何者かであるから、愛してくれるというのではなく、そのまま存在そのものを愛してくれたのである。
 子どもが辛いのは、親に理解されないとか、背中から刺されるということなどではないか。親、祖父母、おじさん、おばさん、親類の人、学校の先生、近所の人、保育園の人など、だれかが背中越しに愛情をもって、たしかに見守ってくれたら、どれだけ子どもは元気で生きていけるだろう。
 贈る言葉ということも考える。言葉は、人に元気を与えることもできれば、極端にいえば魂を殺すこともできる。
 弁護士として離婚事件を担当しているときに、ドメスティック・バイオレンス、家庭のなかの暴力が多いことにもほんとうに驚いた。また、言葉が人に与える影響にも。「君はすてきだ。きっとできるよ」と毎日毎日言われつづけて一〇年たつのと、「バカだ、ブスだ、気が利かない」と一〇年間、言われつづけるのでは、顔つきまでまったく変わってくるのではないか。
 人権というと、むずかしくて抽象的に思う人もいるかもしれない。ひとつは、自分のことを好きで、生きてていいと思えること、自分は大事な存在なのだと思えること、という気がしている。私は、戦争をしないと決めた憲法九条が好きだが、同じくらい憲法一三条が好きである。個人の尊重と幸福追求権を規定している。それでは、この個人の尊重と幸福追求権は一人ひとりに、みんなに保障されているだろうか。一人ひとりが、みんなが、自分のことを大事と思える社会だろうか。一〇代後半、二〇代、三〇代の死因のトップは、自殺である。事故死よりも病死よりも自殺が多いのである。
 小学校、中学校、高校と進むにつれて、何と自己肯定感はどんどん低くなっていく。保育園などに行くと、子どもたちはとても元気で生き生きしている。どこで元気がなくなり、自己肯定感が低く低くなってしまうのだろうか。理由はもちろんひとつではないだろう。ひとつの理由は、偏差値などで子どもが輪切りにされ、ダメだと思い込まされることがあるのではないか。ものさしがいつの間にかひとつだけになり、そのものさしだけで価値が測られる。社会のものさしでしか子どもを測らなくなったら、その子どものよさも、すてきなところも、自由さも見えなくなってしまう。
 もちろん、学校教育だけではなく、雇用が壊れていることや貧困の固定、中間層の没落・崩壊、孤独など、さまざまなことが自己肯定感の低さの要因として考えられる。
 やっぱりこれは解決しなければならない。政治がやれること、やるべきことはたくさんある。そして、個人でやれることも、これまたたくさんあると思うのだ。「あなたのことを思っているよ」と言うだけで、どれだけ救われるだろうか。
 私が差別を根絶したいと思うのは、差別が人の生きる力を奪うからである。人が自分のことを大事と思う力を奪うからである。それこそ、個人の尊重と幸福追求権を奪うからである。ほんとうに優しかった母は亡くなってしまったが、私があらためていま身につけたいものは、優しさである。贈る言葉を大事にし、一人ひとりが、生きててよかった、と思える社会をつくっていきたい。




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