福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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事務次官のセクシュアル・ハラスメント

〈『部落解放』2018年6月号〉

 

 財務省の事務次官のセクシュアル・ハラスメントの問題は、ほんとうにひどい。
 事務次官は、その役所のトップである。その人から連絡があれば、もちろん取材に行くし、行かなければならない。それは女性でも男性でも同じである。そこで、「キスしてもいい?」とか「胸触っていい?」などと言われたら、ほんとうに苦痛である。被害者の女性は一年半耐えていたというから、ほんとうにどれだけ嫌だっただろうかと思う。
 私たちのごく身近で働く女性たちが、このようなひどい労働環境で働いていることにあきれ、驚き、怒っている。セクシュアル・ハラスメントを根絶しなければならない。
 私は、セクシュアル・ハラスメントの裁判や事件を担当する弁護士だった。セクシュアル・ハラスメントは、被害者の女性の心も体も労働環境も破壊するものである。仕事を辞めざるを得なかったり、男性不信、人間不信に陥ったり、病気になったり、もう一度働くことが困難になったり、さまざまなものを破壊する。
 今回のセクシュアル・ハラスメントがとりわけ深刻なのは、圧倒的な力関係の格差があることである。取材をするためには、会わなければならないし、拒否すれば報復もありうる。仕事を失うことも、左遷されることもありうるのである。マスコミの記者になり、セクシュアル・ハラスメントで辞めた女性を何人も知っている。
 セクハラという言葉が流行語大賞をとり、セクシュアル・ハラスメントを真正面から訴える裁判が提訴されたのは、一九八九年である。あれから三〇年近くたつのに、何も変わっていないというのはどういうことだろう。
 財務省は、福田事務次官の聞き取りを矢野官房長が行い、セクシュアル・ハラスメントを全面否定する調査結果を財務省の名前で発表し、財務省の顧問法律事務所に、被害を訴える女性たちが言ってくるように、記者クラブなどに告知を行なった。このやり方は、きわめて問題ではないか。
 当時、女性の記者たちに言われたのは、事務次官が辞めると言わない段階で自分の被害を訴えるのはむずかしい、訴えて不利益扱いを受けるかもしれない、また、会社などからもトラブルメーカーのように扱われる危険性もある、財務省の顧問法律事務所だと信頼性が保てないということだった。また、記者という職業に固有の問題がある。取材源の秘匿を課されていて、取材上のやりとりを明らかにすることが、記者倫理上、問題になりうるからである。
 ある学校でいじめがあるという報道がなされ、学校は、それを全面否定する加害者の言い分を発表し、「いじめを訴える人は校長先生に言ってきなさい」と告知したとして、果たして、「はい、私がいじめられています」と言えるだろうか。そして、だれも訴えてこなかったので、いじめはなかったと言えるのだろうか。
 被害と加害のなかで、被害者こそ声を出しにくいことがわかっていないのである。あるいは、加害者側が全面否定をするなかで、被害者に言ってこいと求めることがどれだけ残酷かということもわかっていない。
 テレビ朝日が、女性から被害を聞き、事実を確定し、財務省に抗議文を提出したにもかかわらず、事務次官が「全体としてセクハラでない」と言い、麻生財務大臣が「セクハラかどうかわからない」と言っているのは、大問題である。官房長のゆるい聞き取りで、事務次官の全面否定の言い訳を文書で公開し、事務次官の否定の発言を放置しているのはなぜか。被害者にとっては、「セクハラではない」と言われることがどれほど苦痛か、わかっていない。セクシュアル・ハラスメントの二次被害が起きているのである。
 セクシュアル・ハラスメントを認定し、謝罪をさせ、懲戒処分をするべきである。
 セクシュアル・ハラスメントの根絶、被害にあった人を決して一人にしない、そのために多くの人と力を合わせたい。
 性暴力被害者支援法も成立させたいものである。




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