福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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再審制度の改革を

『部落解放』2019年6月号

 

 映画「金子文子と朴烈」を見た。大きな刺激を受けて、彼らの弁護をした弁護士・布施辰治さんの伝記をあらためて読む。お孫さんである大石進さんが書かれた『弁護士布施辰治』(西田書店刊)である。この本にこうある。
 「そもそも、刑事弁護で関わる社会的弱者と、社会事件で関わる社会的弱者の間に、それほどの距離はない。さらにいえば、すべての人間は、逮捕された瞬間に社会的弱者になる、というのが布施の認識だった。」
 そのとおりである。
 カルロス・ゴーンさんのケースを見ていると、救世主、改革者として崇められ、巨万の富を持っているカルロス・ゴーンさんも、ひとたび刑事被告人になれば社会的弱者になってしまう。彼の場合は、長期の勾留、接見禁止がついて家族に会えない、罪証隠滅のおそれを理由になかなか保釈されない、保釈されても別の容疑で逮捕され、また勾留されてしまうという厳しいもの。だれでも、どんな人でも、ひとたび被疑者・被告人になれば、すさまじい社会的弱者になる。
 社会的弱者が被疑者・被告人になれば、それこそ、さらに社会的弱者になる。どう自分の無罪を証明していいかわからない、だれを信用していいかわからない、手続きもわからない、だれも耳を傾けてくれない、自分もなかなか信用されないなど、絶望的な状況となる。精神的にも追い詰められる。
 カルロス・ゴーンさんは、検察庁が担当なので、代用監獄ではなく拘置所に収容されたが、多くの人は代用監獄に収容される。代用監獄は、取り調べをする側と身柄を管理する側が同じ警察なので、長時間の取り調べをはじめ自白の強要などが起きやすく、制度上問題があることは、自由権規約委員会などで指摘されつづけている。また、無罪を主張しつづけると、罪証隠滅のおそれがあるとして、保釈が認められないことが多い。人質司法といわれている。そもそも、経済的理由から保釈保証金を準備できない被告人も多い。自白偏重も大きな問題である。冤罪を生みやすい制度上の問題があるのである。
 無罪を主張するのに重要な仕組みのひとつが再審制度である。
 まさに、狭山事件の石川一雄さんも、袴田事件の袴田巌さんも、そして、多くの人たちが再審を請求して、無罪を勝ち取ろうと悪戦苦闘し、努力している。再審無罪を勝ち取ったケースももちろんあるが、わずかしかない。
 そこで、再審の制度は明らかに改革が必要である。
 まず、第一に、きちんとした制度になっていない。再審を請求しても何も手続きはなく、ある日、何の連絡もなく棄却の決定が出されるということも多い。条文が整備されていないのである。
 第二に、証拠開示の手続きがない。通常の手続きであれば、証拠開示は一定程度なされるようになった。しかし、再審の手続きにおいて、証拠開示は何も担保されていない。正直いって、「いい裁判官」に当たれば証拠開示は一定進むが、「そうでない裁判官」のときはまったく進まないことがある。再審の制度においても証拠開示の条文は必要である。
 第三に、再審開始決定に対して検察官の抗告を許すべきだろうか。袴田さんの場合、地裁が再審開始を決定したが検察官が抗告し、東京高裁が検察官の抗告を認め、再審開始を取り消したので、さらに最高裁で争うことになった。長期間にわたり、無罪を勝ち取ることができないのである。正直いって、再審開始決定のハードルはきわめて高い。いったん地裁が再審開始を認めたのであれば、それを尊重し、検察官抗告は認めないとすべきではないだろうか。
 再審法をつくろう、再審についての制度をつくろう、条文をつくろうという動きが活発になり、議論が始まっている。イギリスでは、再審は、当事者からの申し出にもとづいて刑事再審委員会が調査を行い、控訴裁判所に申し立てができる。この二〇年間で六〇〇件以上申し立てている。再審について大いに議論し、制度をつくっていこうではないか。




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