福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

「参議院議員・弁護士 福島みずほのWebsite」はこちら



 

ケン・ローチ「家族を想うとき」

〈『部落解放』2020年2月号〉

 

 ケン・ローチ監督の「家族を想うとき」の映画を見る。前作の「わたしは、ダニエル・ブレイク」は福祉の現場がテーマだったが、今回は雇用。日本でも「フツーの仕事がしたい」や労働現場を扱ったすぐれたドキュメンタリーがあるが、世界共通のまさに労働の問題を扱った映画である。
 リッキーは、イギリスの地方都市で暮らしている。一〇年前、銀行の取り付け騒ぎで住宅ローンが流れ、建設の仕事も失った彼は、職を転々としながら懸命に働いてきた。フランチャイズの宅配ドライバーとして独立を決意する。しかし、自営業なので、配送用の車を買うか借りるかしかない。借りるのは割高になると考え、ローンで宅配用の車を買う。リッキーは一日一四時間・週六日、二年も働けばマイホームが買えると考え、猛烈に働く。しかし、大変な労働である。トイレに行く時間がなく、尿瓶で用を足す。子どもの緊急の用事で、どうしても休まなければならないが、本部方の人間は「自営業だから必ず自分で代わりを探せ。休むのだから制裁金を払え」と言う。
 自営業だったら、自分で労働時間を管理し、休みたいときに休めるはずが、むしろ休めない。どこが自営業か! 労働者だったら、労働時間の規制があり、割増賃金があり、配送車はもちろん会社が購入し、労働者が使う。しかし、フランチャイズの自営業はそうではない。
 妻のアビーは、パートタイムの介護福祉士として、さまざまなお年寄りの家に通っている。移動時間は労働時間に計算されず、献身的に働くアビーだが、労働条件はよくない。クタクタになって働くアビー。
 子どもが二人いて、両親は家族のために必死で働いているが、クタクタで、子どもとゆっくり話をする時間も余裕もない。世渡りが下手で、不器用で、でも必死で働くリッキーと優しいアビーがとにかく救いだ。
 雇用によらない働き方は日本でも広がっている。この映画を見ながら、友人たちの顔を思い出した。コンビニの店長がいて、ユニオンをつくって活動している。三六五日二四時間、店を開けなくてはならないのをやめてくれと大阪の店長が言ったら、本部から制裁金が要求された。その後、議論になった。コンビニ店長側からせめてお正月は休みたいという声もあがっている。自営業だから店の開店日時も労働時間も選べるはずなのに、そうなっていない。家族総出で働いているコンビニ店長もいれば、年収が二〇〇万円を切っているという話も聞いたことがある。長時間労働の実態がある。あるコンビニに張り紙があった。弁護士名で、倒産したので債権者は連絡するように、というものだった。しばらく経ってその場所を通りかかったら、別のコンビニが開業していた。倒産し、自殺に追い込まれた店長もいる。ほんとうに心が痛い。自営業で自己責任と言われながら、まったく自由がない。自己責任なのか。フランチャイズのクリーニング店にしたら拘束時間が長くなり、収入が減って大変になったという話を聞いたことがある。
 雇用によらない働き方のすさまじさよ! 雇用というかたちの労働者の実態も大変である。非正規雇用が四割を超している。派遣労働者で交通費をもらっていない人も多い。これが大変であるという話を聞いたことがある。なかなか改善していない。同一労働同一賃金はほど遠く、シングルマザーのお母さんの平均年間就労所得は一八六万円である。ぎりぎりの生活をしている人がいかに多いことか。
 「家族を想うとき」の映画は心に突き刺さり、法制度を何とかしなくっちゃと切実に思った。それと同時に、実は心が温まる映画でもある。妻から夫、夫から妻、親からそれぞれの子ども、子どもからそれぞれの親に対する想い、手伝ったり、ケンカしたり、反抗したりなどがあるが、想いは本物である。家族のために働きながら、働くことの過酷さで家族が壊れていくが、しかし、家族のなかのそれぞれの想いに救われる。
 そして、労働法制による規制やフランチャイズ基本法の制定など、やるべきことはたくさんあるとつくづく思った。




「福島みずほの人権いろいろ」index


HOME


JINKEN BOOKは、(株)解放出版社が提供しています。 無断転載を禁じます 。
Copyright (C)Buraku Liberation Publishing House Co.,ltd 2001, All Rights Reserved


E-mail

(株)解放出版社
Phone:06-6581-8542(代表) Fax:06-6581-8552
東京営業所: Phone:03-5213-4771(営業) FAX:03-3230-1600