福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

「参議院議員・弁護士 福島みずほのWebsite」はこちら



 

足をどかしてくれませんか。

〈『部落解放』2020年3月号〉

 

 『足をどかしてくれませんか。——メディアは女たちの声を届けているか』(林香里編、亜紀書房刊)を読んだ。踏み続けているその足をどけてくれということだが、日本の社会に空気のように当たり前に存在する女性差別、女性に対するバッシング、そして、そのことに抗議し、変えようとしている生き生きとしたさまざまな動きが書かれている。読みながら、ため息をつきたくなることと元気が出ることの両方である。女性差別の深さとそれに抗して変えようと発言し、発信し、動いているさまざまな新しい動きのすばらしさの両方を、浴びるように読むことができる。
 とくに印象に残ったのは、「ネットミソジニー——行き場のない憎しみが女性たちに向かっている」「『殻』を破ろうとする韓国の女性たち——消される『声』に抗して」などの章である。
 ミソジニーとは女性嫌悪のことである。男性たちも叩かれるが、それが女性だとさらに叩かれる。とりわけ若い女性だと「何もわからないくせにガタガタ言うな」的な上から目線のバッシングがひどい。
 伊藤詩織さんは自ら受けた性暴力について民事裁判を提訴し、二〇一九年一二月一八日、東京地方裁判所で同意がなかったとして損害賠償請求が認められた。相手は控訴したが、一審判決の勝訴はほんとうによかった。どれだけ被害者ががんばらなくてはならないか。伊藤詩織さんが性暴力について記者会見を行ったあと、伊藤さんに対するネットも含めたすざまじいバッシングが起きた。彼女は日本に住むことが困難になり、イギリスに住んでいた。
 「クートゥー」運動を始めた石川優実さんがいる。彼女は二〇一九年一月二四日にツイッターにこう書いた。
 「私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思っているの。専門の時ホテルに泊まり込みで一ヶ月バイトしたのだけどパンプスで足がもうダメで、専門もやめた。なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに。」
 このことが多くの女性たちの共感を呼んだ。と同時に「そんなことを言うなんて」というバッシングも起きたのである。国会でも、女性に対するパンプスの強要は雇用機会均等法の趣旨に反すると厚生労働大臣が答弁。フォーマルでは女性はパンプスを履いて当たり前というのが変わったのである。ハラスメント指針を広報するパンフレットにも書くと厚生労働省は答弁。石川優実さんと一緒に厚生労働省と書きぶりを話し合った。一人の女性が声を上げて、そうなんだ、言っていいのだと広がった。共感が広がった。そして、バッシングも非常に受けたのである。それに石川さんは反論。頭が下がる。「男を敵にするな」と言ったもの、客の社会通念を持ち出してくる人もいる。差別ではないというものも。しかし、嫌なものは嫌だ、大変だと言って何が悪い。
 活動する女性の議員、弁護士、活動家の人たちに物が勝手に注文され送り届けられたり、ツイッターをはじめインターネット上で執拗に攻撃されたりする。一般の女性たちも提案をしたりすると、そのことが攻撃されたりする。
 『足をどかしてくれませんか。』の本の中にある女性作家の経験が描かれている。数カ月にわたり、ネット上で殺害予告とも取れるような脅迫を受け、予定していたイベントや講演に登壇できなくなった。だが、こうした脅迫には屈しないという姿勢を自分のInstagramで明らかにし、大きな反響を呼んだ。九割は共感だったが、あなたにも責任があるという意見もあったそうだ。原稿に自分の写真を添えたことを批判する声もあったという。その女性作家の言葉が引用されている。
 「被害者が自主性を持って強くあることに、拒否反応があるんでしょう。被害女性がサバイブの体験を語るとき、その人らしく振る舞うことに嫌悪感を抱く人は、自分の中のどういう劣情がそうさせているかを、考えた方がいいですね。」
 ハラスメントや暴力がどうして起きるのかといえば、それは被害者側の問題ではなく、加害者側の問題である。しかし、日本では被害者が孤立し、悩み、肩身の狭い思いをし、恐怖を抱き、場合によっては発言できなくなっていっている。差別の再生産である。
 多くの女性はバッシングや反論を受けたら萎縮してしまう。声を上げること、そして、そのことを支えていくことをやっていきたい。『足をどかしてくれませんか。』は女性たちの連帯とこれからの取り組みも模索するすばらしい本である。




「福島みずほの人権いろいろ」index


HOME


JINKEN BOOKは、(株)解放出版社が提供しています。 無断転載を禁じます 。
Copyright (C)Buraku Liberation Publishing House Co.,ltd 2001, All Rights Reserved


E-mail

(株)解放出版社
Phone:06-6581-8542(代表) Fax:06-6581-8552
東京営業所: Phone:03-5213-4771(営業) FAX:03-3230-1600