福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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一人から始まる民主主義

〈『部落解放』2020年7月号〉

 

 検察庁法改正法案の今国会成立が断念された。これは、一〇〇〇万ともいわれるツイートのうねりが起きたことが、まず大きな理由である。ツイッターのなかで、「#検察庁法改正案に抗議します」というのが出ていた。私もそれに参加し、ほんとうに多くの人たちがツイッターデモに参加した。いまコロナ禍のなかで、集会はできない。コロナの問題がなければ、日比谷野外音楽堂を満杯にする集会が開かれ、国会前でもさまざまな集会が開かれていただろう。しかし、いまそれはできない。でも人々は声を上げることができる。この「#検察庁法改正案に抗議します」を始めたのは三〇代の女性である。そこから抗議しますという言い方が、多くの人に広がったのだろう。検察庁法改正案が成立したら、権力犯罪を裁くことができにくくなるし、公平な社会を維持できなくなるという危機感から多くの人が反応したのだろう。たった一人の人の声からどんどん広がっていく。一人から始まる民主主義、みんなから始まる民主主義。民主主義はほんとうに一人ひとりの思いから、それがつながって政治を変えるということをまさに実感した。
 書いている人には、中学生や高校生もいる。著名人や芸能人の人たちもいる。いままで政治的な発言をツイッターでしてこなかったけれども初めて発言する、そんな記述もあった。いままで日本では、芸能人や著名人の人たちが政治的発言をすることは抑制されていたように思う。大きな地殻変動が起きている。ひとつは政治があまりにひどくなっていること、もうひとつは声を上げていかなきゃという一人ひとりの思いである。それはほんとうに勇気づけられるし、新しい大きな一歩のように思う。
 衆議院の内閣委員会でこの検察庁法改正法案が審議された。国会のインターネット中継をみんな見た。こんなに多くの人が見たことはなかったのではないだろうか。生まれて初めて国会中継を見た、というコメントを見た。答弁がこんなにひどいのですね、というのも聞いた。
 さまざまな政治の議論が可視化されて、多くの人が関心をもってくれれば、民主主義は変わっていく。
 与党が圧倒的な数を占めていて、数の論理では法案は成立するのだから、付帯決議でがんばるしかないと言う人がいる。たしかに単なる数の論理では、与党のほうが数が多いのだから、すべての法律が成立することになってしまう。しかし、そんなことはない。質問し、議論し、問題点をみんなが共有することで、その法律が悪法であることをみんなが知れば、状況は歴然と変わっていくのである。国会のなかで、あらゆる可能性を考えて、国会の内外で多くの人とつながって政治状況を変えることができるのだ。一寸先は闇でもあり、一寸先は光でもある。闘わずして光は見えない。一人が声を上げれば、政治が変わる。みんながそう思うようになれば、歴然と政治は変わっていく。
 今回の検察庁法改正法案の断念には、たくさんの人々の思いと力が込められている。元検事総長の松尾邦弘さん、元最高検検事の清水勇男さんたちが出した意見書、元東京地検特捜部の人たちが出した意見書は、まったくそのとおりである。個々の検察幹部の定年を内閣が決めれば、検察官の中立性、独立性が奪われていく。一九五四年、造船疑獄で、検察庁は自由党幹事長の佐藤栄作さんを逮捕しようとした。しかし、法務大臣が指揮権を発動して、逮捕を止めた。検察庁はそれに屈服し、結局逮捕はされなかった。そのことによって多くの心ある検察官が検察庁を辞めたと聞く。検察幹部の個々の定年を延長するかしないかを内閣が決めれば、権力犯罪に検察官は切り込めなくなる。権力犯罪が裁かれなければ、この世は闇だ。政治権力と検察が癒着し、検察が権力犯罪の起訴ができなくなれば、権力はさらに腐敗していく。
 一人から始める民主主義、一人でもできる民主主義。一人が声を上げれば社会は変わる。「どうせやったって無駄だ、何をやっても変わらない」というのは呪いの言葉である。声を上げれば政治は変わるのだという第一歩を踏みしめ、民主主義の力を信じてつながっていこう。




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