福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

「参議院議員・弁護士 福島みずほのWebsite」はこちら



 

核兵器禁止条約の批准を

〈『部落解放』2020年10月号〉

 

 今年も、広島の平和記念式典、長崎の平和祈念式典にそれぞれ参列した。また、被爆した人たちの経験を聞き、交流する機会があった。毎回毎回話を聞くたびに、本当の被害についてまだまだ知らなかったと思うことばかりである。
 数年前に「ひろしま」という映画を見た。日教組プロが一九四五年の原爆投下から八年後の一九五三年に製作したものである。広島県教職員組合と広島市民の全面的協力のもとで製作され、一般市民など約八万八五〇〇人が手弁当でエキストラとして参加した。実際、原爆を体験した人たちが多く参加し、阿鼻叫喚の広島の惨状が映画のなかで描かれる。いちばん心に刺さったのは、兄とともに疎開先から戻ってきた女の子が、一緒に救護所へ行き、そこで瀕死の父と再会するが、あまりに変わり果てた父の姿にショックを受けて、「お父ちゃんじゃない」と叫んでその場を立ち去って行方不明になってしまったところである。お母さんは死んでいるし、まだ小学校低学年の女の子はそれからどうやって生きていっただろうかと本当に思った。この映画を見ても、私は本当のことは知らなかったと痛感した。
 長崎の平和祈念式典に参列していたときに、安倍総理の来賓の言葉が、ほとんど広島でのあいさつと同じであることに怒りを感じ、がっかりした。思いを込めて自分の言葉でそれぞれ語るべきではないだろうか。広島市長も長崎市長も宣言のなかで、核兵器禁止条約の批准を訴えた。核兵器禁止条約は三年前に採択された。現在、四四カ国が批准しており、発効するのに必要な五〇カ国まであと六カ国に迫っている。唯一の戦争被爆国である日本が真っ先に批准すべきではないだろうか。世論調査でも七〇%以上の人たちが批准すべきだと言っている。
 政府はきわめて後ろ向きで、核兵器禁止条約というアプローチはとらないと言っている。しかし、現在一万四〇〇〇発の核兵器が存在し、広島、長崎の原爆をはるかに超える強力な核兵器が存在している。核不拡散条約などさまざまなアプローチももちろん存在するけれども、核兵器禁止条約を批准すれば大きく前進すると考える。
 核兵器禁止条約には大きな実効性があるからである。地雷禁止条約やクラスター爆弾禁止条約は大きな意味を持った。クラスター爆弾は、投下されると親爆弾から子爆弾に細かく分かれ、子爆弾は地雷のような役割を果たし、戦争が終わったあとも子どもを含めた多くの市民を殺傷してしまう。クラスター爆弾禁止条約が採択された当時、日本の自衛隊はクラスター爆弾を百数十億円分保有していた。しかし、市民社会の努力で日本は条約を批准し、自衛隊は数億円かけてこのクラスター爆弾を廃棄し、現在クラスター爆弾の保有はゼロである。条約を批准する国がどんどん増えていけば、保有国に対しても大きな影響を与えるのである。このような役割を核兵器禁止条約も果たしていくだろう。
 南アフリカ共和国は、アパルトヘイトの廃止に向かうなかで、当時保有していた核兵器を廃棄し、保有をやめた。すべての核保有国が核軍縮に明確に向かうように努力していきたい。
 核の抑止力を言う人々がいる。しかし、湯崎英彦・広島県知事が平和記念式典で明確に述べたように、核抑止力はまったくの虚構である。壊滅的な打撃を与える核兵器を使う可能性を考えることそのものがきわめて非人道的であり、地球を破滅に追い込んでいく。核抑止力の考え方を前提とすれば、極端にいえば、すべての国が核を保有することになってしまう。あるいは核兵器を多く持つことを推進してしまう。それは破滅への道である。
 また、日本は日米安保条約を締結しており、アメリカの「核の傘」によって守られているので批准ができないと言う人々がいる。しかし、「核の傘」によって守られているという発想そのものが、核抑止力を前提とした考え方である。核抑止力の考え方と決別しなければ、核兵器廃絶はできない。ニュージーランドはアメリカと同盟関係にある。しかし、核兵器禁止条約を批准している。日本政府の核兵器禁止条約にまったく後ろ向きの姿勢が、私にはアメリカに対する「忖度」に思える。被爆者のみなさんは高齢となり、いまこそ核兵器禁止条約の批准を、と求めている。「唯一の戦争被爆国日本」と言いながら、核兵器禁止条約の批准すらしないのでは、国際社会のなかでも日本社会のなかでも理解を得られないと考える。政府が、日本国憲法前文を引いて「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と言うのであれば、核兵器禁止条約の批准にむかって大きく踏み出すべきである。




「福島みずほの人権いろいろ」index


HOME


JINKEN BOOKは、(株)解放出版社が提供しています。 無断転載を禁じます 。
Copyright (C)Buraku Liberation Publishing House Co.,ltd 2001, All Rights Reserved


E-mail

(株)解放出版社
Phone:06-6581-8542(代表) Fax:06-6581-8552
東京営業所: Phone:03-5213-4771(営業) FAX:03-3230-1600