コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2001/07/19up)


 

◆企業へのラブレターへの次
『部落解放』2001年8月号掲載〉

山中登志子

 
  「部落問題かな」――。一九九九年、ちょっとしたブームになった『買ってはいけない』(『週刊金曜日』別冊ブックレット2)。花王のアタックがどうだ、味の素がどうだなど企業の商品を実名をあげてホンネを書いたら、二〇〇万部に迫るベストセラーになった。企業に変わってほしいという思いから届けた「企業へのラブレター」本だ。企画・執筆・編集と担当したわたしに「次はどんなことを?」「いま、いちばん興味あるテーマは?」と質問してくる取材記者たち。わたしの関心のひとつが「部落問題」だということを聞いて、みなキョトンとしていた。海外メディアにも同じことを伝えた。
 九九年四月から『週刊金曜日』で「部落差別と人権」の連載を不定期だがはじめていた。それ以前にも、狭山事件の石川一雄さんの声なども何度か伝えてきたが、九八年六月、たまたまフィールドワークで大阪にある識字教室を訪問し、そこでわたしが見たこと、ふれあったことが部落問題を“改めて”考えるきっかけとなった。書類が書けないから手に包帯をして役所に行った、電車など自動券売機になってから出かけなくなった……。そんな話を聞いても、すぐに飲みこめなかった。識字率何%というのはアジアのどこかの国の話といった意識があったのかもしれない。九五年、「絵筆に託して――“従軍慰安婦”にされたハルモニの思い」記事中の表現をめぐって、全芝浦屠場労働組合と何度か話しあいも続けた。表現する側は踏みつける側になり、差別を再生産する「権力」にもなってしまうと感じた。その後、九九年、と場見学に出かけた。いろいろな人との出あいから「体感」してきた。
 いま、わたしは茶せん、白なめしのお財布、桐下駄などの伝統に親しんでいる。これも、写真家・今枝弘一さん撮影の「このくにの職人」を通しての出あいがあったからだ。勝手に「賤しい」身分とされ、民衆が行わないような役目を強いられたり、独自の芸能や仕事など文化を担ってきたこと、そのいまを生きている民衆文化・芸能が時代の流れの中、失われつつあることを伝える企画だ。「被差別の食卓」で出あった油かすが、東京でも手軽に手に入るようになればいいのにとも思った。そういう出あいもあれば、部落差別で活動している男のひとの中にも、女性に対する人権意識はまだまだこれからというひとに出あったりもした。「山中さんのように、女性も強くなりましたから」「女性問題は女性がやったほうがいいですよ」というのを聞くと、「ちょっと待ってよ」となる。職場、パートナー関係、運動のなかでも「内なる天皇制」についてもっと敏感でいようよ、女性問題は男性問題なんだから……そう、声高に叫びたくなる。うるさがられても、煙たがられても、言い続けていくぞと力む自分もいる。
 さて、『買ってはいけない』発売後、批判本、便乗本が数十冊は出ただろうか。取材力の甘さなど指摘された。たしかに反省材料もある。しかし、そのときに気になったのがわたしたちがとりあげた八十九商品の枠のなかでの議論に終始したことである。いまも次から次へと同じような商品が売り続けられ、新商品も出ている。しかし、それらには踏み込まずに、わたしたちの足りない点を指摘する。企業批判はタブーなのか? 一緒に異議申し立てしていけないのだろうか。そして、それは、わたしが「部落問題」を伝えたいと言ったときの「沈黙」にも同じ構造を感じる。社会の息苦しさから解放されるために、表現する側から発信できないか。まず、わたしができることをわたしから、そして、一緒にできたらいいなとも思っている。(やまなか・としこ/『週刊金曜日』編集者 )  ※『週刊金曜日』HP


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