コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2001/08/20up)


 

警察の“復調”◆
『部落解放』2001年9月号掲載〉

寺澤 有

 最近、警察の“復調”が顕著だと思う。“復調”といってもよい意味ではない。
 一九九九年九月、神奈川県警の不祥事が連続発覚して以来、警察は未曾有のバッシングを受けてきた。それまで、警察に対する批判といえば、警察官が個人的な不祥事を起こした場合の散発的なものばかり。警察の組織的な腐敗に切り込む批判など、ほとんど聞いたことがなかった。国民もマスコミも警察を「怖い」と感じていたし、「いざとなれば、頼らざるを得ない」と思っていた。特に、マスコミは警察からの情報に頼り、日々のニュースを流している。警察のご機嫌を損ね、情報がもらえなくなれば、「報道機関」としての存立にかかわる。もっとも、「報道機関」というのは自分たちの足で情報を収集するものだが、日本の場合、警察などの官庁が税金を使って集めた情報をいかに効率よく(言い換えれば、無償に近く)入手できるかが重要視されている。
 こうして、警察に対する批判が起こりにくい状況でありながら、未曾有の警察バッシングが続いた。いちばん大きな原因は、国民もマスコミも心の奥底で「警察も悪さの度が過ぎる」と感じていたからだ。それが神奈川県警の不祥事が突破口となり、一気に吹き出した。批判慣れしていない警察が稚拙な隠ぺい工作をくり返し、それらが発覚するたびに警察への風当たりが強まった点も見逃せない。
 私は、一九八九年からジャーナリストとして警察批判を続けている。最初は自動車雑誌で交通取り締まりの疑問点、つまり、「スピード違反にしても駐車違反にしても、どうして不必要と思える取り締まりばかりが行われ、交通の安全と円滑が図られるような対策がとられないのか」を追及し、連載していた。すぐに交通取り締まりと警察の交通利権が密接不可分であることに気づき(例えば、駐車違反取り締まりのレッカー移動業務は警察の天下り団体・「交通安全協会」が請け負っており、莫大な収入を得ている)、連載の重点もその方向へ移っていった。
 すると、途端に警察の反応は敵愾心があらわとなり、取材拒否がくり返された。こちらがいくら具体的な質問事項を示しても、「警察批判のための取材に応じる必要はない」などと言い放った。そのうち、警察庁や警視庁の広報担当窓口へ行こうとしても、「あなたに会う必要はない」と玄関の受付でシャットアウトされるようになった。
 自動車雑誌で二年間連載した後、私は週刊誌などで署名記事を書き始めた。警察の取り締まりと利権が密接不可分となっている分野は、交通に限らず、風俗営業や暴力団対策等々、幅広く存在していたからだ。そうなってからも、警察の私に対する取材拒否の姿勢は変わらなかった。おかげで、一九九四年に『警察庁出入り禁止』(風雅書房)という単行本が出版できたほどである。
 ところが、先の神奈川県警不祥事の発覚以降、対応が変わった。入稿直前、「今回も取材拒否ということでいいですね」と私が確認の電話を入れると、「待ってください。ウチはコメントを出します」と答える警察の広報担当者が大部分になった。警察バッシングのさなか、「取材拒否」などという不遜な態度はさらなるバッシングを招くと彼らなりに判断したのであろう。
 とはいえ、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺もあるとおり、最近、警察の広報担当者の対応は元に戻りつつあるように思う。「取材拒否」までは行かなくても、こちらの具体的な質問には一切答えず、「○○は適正に執行されている」のような木で鼻をくくった回答が増えてきた。私が再び「出入り禁止」となる日も近いはずだ。
 結局、警察のような権力は常に監視が必要である。国民やマスコミがいちどはそれに気づきながら、また忘れつつあることが警察の対応の変化からうかがえる。二度目の警察バッシングはないかもしれないのに、このままでよいのだろうか。 (てらさわ・ゆう/ジャーナリスト ) 
『The Incidents』
  寺澤さんが編集長をつとめるインターネットをメディアとした新しいジャーナリズム


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