コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2002/03/14up)




◆歴史から学んで、よき未来を刻んで行け◆
Past experience, if not forgotten, can be a guide for the future


〈『部落解放』2001年11月号掲載〉

T・ラズロ

 小泉総理の八月十三日の靖国神社参拝に対して、隣国政府による抗議をはじめ、国内外からの反対の声があがった。しかし、国内からの賛成の声もかなり強く聞こえるものだった。総理は終戦記念日を避けた形で日にちを変え、結局は参拝を行った。これで「堂々とした」参拝を期待していた人々も、そしてどんな参拝にも反対していた人々も、両方が満足しない結果となった。日本の総理大臣による公式参拝問題は今回決着がつけられず、この問題がまたまた持ち越されてしまったわけだ。
 私は現役の総理大臣による靖国神社の参拝には反対だ。靖国神社は日本人を侵略戦争にかりたてていた歴史がある。そして、日本人を侵略戦争に導いたA級戦犯として死刑に処せられた軍部指導者が祀られている。日本は帝国拡大時代の加害者としての責任を認め、反省しているはずだ。だとすれば、日本を代表する公務員が戦争のシンボルの一つであった靖国神社を参拝するのはおかしいと思う。参拝することも大切だが、A級戦犯の祀られていないところ、そして靖国神社と違う歴史をもったところが良いだろう。
 もちろん、この観点から見れば、問題になるのは今回の総理の参拝だけではない。以前から毎年多数の公務員が参拝をしている。さらに、日本人一人ひとりの立場も問われている。反対の声がないことはないとはいえ、日本の世論は確かにこの実態を容認している。
 一九九八年、来日中の江沢民の言葉を思い出す。「世紀交替のこの重要な歴史的時期に、過去を掘り下げて回顧、総括し、長い歴史の流れから有益な経験と前進の原動力を汲み取ることは、われわれが未来を正しく把握し、よりよく切り開いていくうえで、疑いもなく極めて重要なことだ」と主張した演説の中で、江氏が次の諺を紹介した。「明鏡所以照形、古事所以知今」。この言葉は英語圏でも重要なものとして知られており、Past experience, if not forgotten, can be a guide for the future =「歴史から学んで、よき未来を刻んで行け」という決まった英訳がある。
 しかし、この諺の決まった和訳がない(外務省はこれを「歴史を鏡として、未来を切り開こう」と訳しているが、問い合わせに対して、これはオリジナル訳かどうかは不明だという)。「温故知新」という言葉があるが、これは精神がちょっと違う。
 日本で歴史に関する諺でもっとよく使われているものといえば、「歴史は繰り返す」である。これはおよそ二千四百年前の古代ギリシャのもので、学んでも、学ばなくても、人間は同じ過ちを繰り返すだろうという、かなり悲観的な哲学に基づいたものだ。これは中国語圏にも英語圏にも知られている諺だが、もっと希望のあるものと入れ替えられている。英語では、「過去から学べない者はその過去を再現する運命になる」というのが二十世紀初期の誕生から人気を保っている。
 ちなみに、江氏が述べた諺が一九九八年に発行された日中共同宣言に盛り込まれるよう、中国政府はねばり強く働きかけたのだが、日本側はなぜかこれを固く拒否し続けた。結局、共同宣言を発することができたものの、将来のために歴史から学ぶ必要があるという明白な再確認ができなかった。
 この数年間、「過去を見つめ、未来を切り開く」というテーマで集会を開いている日本の市民団体もある。この点で、特に、在日コリアンを中心とした組織の活動は注目に値する。日本の公務員の靖国神社参拝が来年や再来年にまたクローズアップされるだろうが、その際、日本人は自分が歴史からちゃんと学んでいるということを、わかりやすい表現で世界にアピールしたほうがいいのではないか。次の終戦記念日に間に合うように、多くの日本人が隣国の人々、そして国内の外国籍住民とも手を組んで、歴史の勉強、そしてできれば諺づくりに励むよう、提案したいと思う。
(トニー・ラズロ/ジャーナリスト・ 「一緒企画」主宰)
※「一緒企画」webサイト  http://www.issho.org/


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