コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2002/03/14up)




◆「野蛮」と「文明」の対立?◆

〈『部落解放』2001年12月号掲載〉

大仲千華

 「東ティモール人は怠け者。勤務時間に平気で遅れてやってきて、仕事に対する責任感がない。おくれている」
  東ティモールで国連ボランティアとして過ごした八ケ月間、多くの外国人スタッフから聞いた言葉である。わたしはそんな彼らとともに、今年一月末から九月まで、東ティモールの暫定統治を担ってきた。暫定統治の一環として主にわたしが携わったものは「住民登録」作業だ。東ティモールでは、一九九九年の独立を巡る住民投票後、インドネシア国軍に後押しされた民兵によって大規模な破壊活動が行われ、住民票などのデータが失われてしまった。そのため、国勢調査もかねた有権者のリストを作成するのが、この住民登録作業である。
  予定より遅れ気味の住民登録を期限までに終わらせたいディリの本部からは、ひっきりなしに電話が入り、「本日の登録数を何時までに報告せよ」とせかしてくる。そのくせ、国連自慢のハイテク機器はしょっちゅう故障する。電気が発電機で起こされ、衛星回線を通じて電話が通じている環境なのだから当たり前かもしれない。そして、出張登録の際には、このハイテク機器を稼動させるためだけに、百二十キロもある発電機をそれぞれの村まで運ばなければならず、道が悪く車でアクセスできない場所へは、わずか五キロの移動をヘリコプターに来てもらうこともあった。
  村人は登録番号を与えられて、「国民」になっていく。新生・東ティモール国の人口データは、有権者リストとしてだけでなく、今後、経済政策のための基礎データとして使われるという。住民登録オフィスでは、毎日の住民登録の「成果」と期限達成までの目標登録数が数値となって示されていく。それは、科学技術で自然を克服しようとし、進歩、効率、生産性を「発展」の基準とする近代資本主義社会の始まりでもある。しかし、ここそこがまだ特別な空間であることはオフィスを一歩外に出ればすぐにわかる。時間はゆっくり流れ、人々は畑を耕し、食事の支度をし、昼寝をし、水浴びをし、まきを拾いに行く。東ティモール人スタッフは言う。「なぜコンピュータを持っていかなければならないんだ」「なぜ馬を使わないのか」。時間と数字とコンピュータに振り回される外国人が東ティモール人を「おくれている」と言えるのか――答えは一目瞭然だろう。
  最近、「文明」という言葉がやたらと新聞を賑わしている。イタリアの首相からは、「西洋は他の地域を文明化させる義務がある」ということまでもが公言され、西洋・近代的価値観を持たない社会はすべて「野蛮」という言い方が各地で見受けられる。しかし、「文明国」を自負する米国、ヨーロッパ諸国は、資源大国インドネシアのご機嫌を損ねることを恐れ、長年インドネシアによって行われてきた東ティモールでの虐殺行為を無視してきた。
  東ティモールでは、今年九月に制憲議会が発足し、多くの女性議員が誕生した。また、憲法の起草作業には、複数政党の多様な意見を反映させるためのねばり強い努力がされている。それは、「文明国」による植民地支配に苦しんできた経験から、少数派の権利にも配慮した包括的な民主主義を確立しようという東ティモールの人々の志と努力によってもたらされている。洋の東西を問わず、自らの利権を守るためには暴力や情報操作もいとわない「野蛮」な人々はいる。移民排斥志向を強めるイタリアの首相は、東ティモールの人から「文明」の意味を習ったらいかがだろうか。
(おおなか・ちか/市民外交センター)
※「市民外交センター」Webサイト http://www3.justnet.ne.jp/~peace-tax/


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