コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2003/01/23up)




◆現代“ナショナリズム”の本質◆

〈『部落解放』2002年07月号掲載〉

斎藤貴男

 日本社会における“ナショナリズム”の高まりが凄まじい。“大東亜戦争”を肯定した、いわゆる「つくる会」の歴史教科書が広く読まれたのをはじめ、中国人や韓国人に対する差別意識で凝り固まったファシスト都知事が無党派層の圧倒的支持を受けている。学校現場では日の丸掲揚と君が代斉唱の強制が日常化するに至った。人々の高揚をバネにして、一連の有事法制が閣議決定され、国会審議に入った。これを足がかりに、戦争を放棄した日本国憲法は、いずれ否定されてしまうのではないかと、私は恐怖している。
 私はコスモポリタンになどなれない。個々の問題についてのどうしようもない嫌悪感やその他もろもろの思いもひっくるめて、生まれ育ったこの国を結局は嫌いになりきれないし、愛してもいる。私なりに健全なナショナリストであり、愛国者でもあるつもりなのだが、この種の言葉は使う人や用いられる局面次第で、天と地ほども意味が異なってくるから厄介だ。
 少なくとも昨今の現象は滑稽きわまる。小泉純一郎首相が昨年八月に靖国神社を公式参拝した時の態度など、あまりと言えばあまりな程度の低さにア然とした。英霊にお参りして何が悪い、で済ませられてしまうなら、戦後半世紀にわたって積み重ねられてきた議論とは一体何だったのか。浅薄と無責任こそ日本人の魂だというのなら、それはそれで筋ではあるが。
 あるいは年頭の、やはり小泉首相の記者会見。報道陣の前に突如として現れた紋付き袴姿の似合わなかったこと夥しい。日頃はアメリカべったり、植民地の現地雇いの頭目みたいな男が日本男児を気取ってみても、そんなものは海の向こうのご主人様にエキゾシズム溢れる極東風俗を楽しんでいただく趣向でしかないと、すぐに底が割れる。9・11事件の直後にニューヨークへ駆けつけ、まだ何もわからない段階だったにもかかわらず、ブッシュ大統領に尻尾を振りまくり、できもしない英語で「ウイ・マスト・ファイト」などと、自国民の命を勝手に差し出した忠犬ぶり。さらにまた、そのブッシュ大統領がこの二月に来日し、9・11事件の犠牲者たちに愛媛県民が贈った寄付へのお礼を国会で述べた際、「えひめ丸」事件の悲しみを乗り越え云々と続けながら絶対に謝ろうとしなかった彼をにこにこと見上げていただけの首相の姿を、私は腹の底からの軽蔑とともに、未来永劫、忘れることができないだろう。
 有事法制も改憲も、主唱者たちの勇ましい振る舞いとは裏腹に、ナショナリズムの発露でも何でもありはしない。いかにアメリカに追従するか、アメリカの都合で始められる戦争のために日本国民の血を可能な限り大量に流させることによって保身を図る、醜悪な現地雇いたち。
 アメリカにはかねて、“大東亜共栄圏再活用論”なる対日政策のアイディアがあるそうだ。黄色人種の雄を自認する日本にアジア統治の一部を委ね、複雑なこの地域を間接支配しようとする目論見で、このところ政財官界の一部でしばしば話題になっていると、ある専門家との会話で知った。
 確かに。より安い労賃を求めて東南アジアや中国に日本企業の製造拠点が集積してきた現実、九条論議もあればこそ、一足飛びに海外派兵の正当化へと突っ走りつつある改憲への道行きには、アメリカナイズされた大東亜共栄圏とでもいった趣が感じられることがある。
 哀しい民族なのだ。群れて声高に主張する類の“ナショナリズム”“愛国心”とは、よほど距離を置かなければならないと、私は思っている。(さいとう・たかお/ジャーナリスト)


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