コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2003/01/23up)




◆検察の暴走が始まった◆

〈『部落解放』2002年09月号掲載〉

魚住 昭

 何か裏があるのではないか。奈良地検の元検察事務官が建造物侵入の現行犯で逮捕されたというニュースを聞いて、そう思った。彼は週刊誌などに検察の裏金づくりの実態を暴露した男である。
 彼と同様、裏金疑惑の内部告発をしていた前大阪高検公安部長の三井環氏が四月に逮捕されたことは読者もご存じだろう。実は、裏金疑惑の内部告発者が逮捕されたのはこれだけではない。
 今年二月に詐欺容疑で逮捕された金沢地検の元検察事務官もそうだった。つまりわずか半年の間に内部告発者が三人もたて続けに逮捕されたのである。単なる偶然とはとても考えられない。
 三井氏のケースを見てみよう。彼は二年ほど前から「検察幹部が調査活動費を遊興費に流用している」と匿名でマスコミに告発してきた。動機は人事上の不満らしい。だが、検察当局は「事実無根」と結論づけ、彼が名指しした幹部を栄転させた。業を煮やした三井氏は実名でテレビに登場する覚悟を決め、衆院法務委員会にも参考人として出頭しようとした矢先に逮捕された。
 この逮捕が「口封じ」のためだったことは、容疑事実を見れば一目瞭然だ。1.不動産の登録免許税の軽減措置を受けるため住んでもいないマンションに住んでいると虚偽申請した、2.職務上の必要がないのに暴力団関係者の前科調書を取り寄せた――いずれも逮捕に値しない微罪である。ある検察OBは「自分が担当検事だったら、起訴状を書くのが恥ずかしくなっただろう」と語っていた。
 再逮捕の容疑事実(暴力団関係者から約三十万円相当の飲食接待などを受けた)にしても、従来の常識からすれば懲戒処分の対象になっても収賄で起訴されるような事案ではない。はっきり言って不当逮捕だ。これほど滅茶苦茶な権力行使は戦後検察史にもほとんど例がない。
 だからといって他のケースも不当逮捕だなんて言うつもりはない。警察発表では奈良地検の元事務官宅からは工事現場の事務所から盗みだしたとみられる日本酒などが見つかり、本人も「工事がうるさいので嫌がらせでやった」と容疑を認めているという。金沢地検の元事務官も旅行会社から約十七万円相当の航空回数券をだまし取ったという容疑を認め、すでに執行猶予付きの判決が確定しているというから、現時点では二人の逮捕には三井事件のような明白な問題点は見あたらない。  しかし、私が気にかかるのはなぜ彼らの「違法行為」がこの時期に相次いで発覚したかということだ。おそらく当局は週刊誌に裏金疑惑の記事が出るたびに内部告発者を割り出し、その身辺を徹底的に洗っていたのだろう。目的は言うまでもない。「口封じ」と「見せしめ」である。だとしたらちょっと寒気がするような話ではないか。
 私は知り合いの記者たちに最近の検察をどう思うかと尋ねて回った。彼らは異口同音に「怖い。今の検察は常軌を逸している」と答えた。「だったらなぜ、検察を批判しないのか」と聞くと誰もが口ごもってしまう。新聞が検察を批判できないのは、検察が最も重要な情報源だからだ。ムネオ事件のような疑獄捜査が動き出したら検察情報を抜きにして紙面はつくれない。下手に検察を批判して、特オチ(重要ニュースを一社だけ落とすこと)のしっぺ返しを食うのを恐れているのだろう。
 だが、新聞はこんな時こそ勇気を持って真実を伝えるべきだ。強大な権限を持った検察が暴走を始めたら、この国の民主主義は滅びてしまう。それを食い止められるのは新聞記者しかいない。
 一社で立ち向かうのが難しければ、各社で団結して世論に訴えればいい。記者クラブは本来そのためにあるのではなかったか。 (うおずみ・あきら/フリーライター) 


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