コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2003/03/03up)




◆スポーツ選手の権利とスポーツ文化◆

〈『部落解放』2003年3月号掲載〉

辻口信良

 プロ選手契約―― スポーツ選手の権利と言ってもピンとこない人が多いでしょう。ここでは、プロ野球選手の契約問題を考えます。選手契約は原則一年で、毎年日本シリーズが終わってから十二月にかけ契約更改交渉が行われます。プロ野球選手が契約更改を行う場合、球団事務所に呼び出され、球団の交渉担当者と次年度の年俸につき交渉します。選手は十代〜二十代、せいぜい三十代前半の若者一人、対する球団側は選手の兄貴や父親年代の経験豊富な担当者が二〜三人。選手は敵の陣地で、球団側からたくさんの資料を突きつけられながら、孤独な交渉をするわけです。平等の大切さについて、本誌の読者は十分その意味を理解されてますが、この交渉が平等だとは誰も思わないでしょう。まして、我が国ではスポーツ選手が、もっともこれは日本の教育全体の問題ですが、自主的にものを考えたり創造するというトレーニングをあまり受けていないため、球団側担当者の優勢は一層明らかです。この更改の日さえなければ本当に野球は楽しいのに、と言う選手もいます。
 代理人の必要性―― 「これはおかしい」と、九二年の十二月、ヤクルトの古田敦也選手が、代理人を付けて交渉すると宣言しました。その時の代理人がぼくでした。1.選手は野球のプロだが交渉のプロではない。2.選手は言いたいことが十分言えず、言えば感情的なしこりも残る。3.少し不満を言って一回でも保留すると「金に汚い」「スポーツマンらしくない」と非難される。4.外国人選手には代理人が認められているのに日本人に認められないのはおかしい。これらが選手が代理人を必要とする理由です。華やかに見えても、選手寿命は意外と短く、そんな彼らが現役のせいぜい十年の間に大いに稼ぎたいと思うのは、プロとして当然ですし、交渉を二回三回と重ねるのは当たり前です。皆さんでも三千万円のマンションや一戸建てを買おうとすれば、最低でも五〜六回は、あれこれ比べたり相談したりするでしょう。そんな当然の交渉過程さえ、否定的な目で見られるのが日本の契約社会なのです。で、古田君が代理人同席という当然の権利を求めたことにヤクルト側は驚き、結局、古田君の要求を呑むから、もう代理人は要らないだろうと対応したのです。結果、代理人の同席は実現しませんでした。
 スポーツ文化をおとしめる態度―― 同じプロでもJリーグでは代理人は当然で、ぼくもガンバ大阪の宮本恒靖君らの代理をしています。ところがプロ野球では、先の古田問題以後、選手や選手会に有形無形の圧力があり、球団側が正式に代理人を認めざるを得なくなったのは、二〇〇〇年の秋からでした。ところが、こうしてようやく実現した代理人制度に対し、その直後に読売ジャイアンツの渡辺恒雄オーナーが、「代理人を連れてきたら、それだけで年俸カット」と、とんでもない暴論を吐いたのです。これが公称一千万部、世界一を誇り、社会の木鐸(世人を覚醒させ教え導く人)であるべき大新聞社のトップなのですから、あきれてものが言えません。この人はあちこちで舌禍をまきちらしていますが、プロ野球に関しても、ジャイアンツさえよければ良い、もっと言えば読売新聞さえ良ければ、との態度で一貫しています。これにはさすがの巨人ファンにも眉をひそめる人が多いのです。彼が全体としてのプロ野球、スポーツ文化にとって許し難い存在であることは、間違いありません。今、このナベツネ的なものとの対決・決別が必要です。
(つじぐち・のぶよし/弁護士 関西大学・龍谷大学講師〈スポーツ法学〉)

World-wide Athletes "SPORTS DIARY" http://homepage2.nifty.com/wwa/sd5.htm
宮本恒靖 オフィシャルホームページ http://www.tsune.org/top.html


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