コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2003/03/17up)




◆グアテマラ・コスタリカから見えたもの◆

〈『部落解放』2003年4月号掲載〉

土井香苗

 昨年一月、グアテマラとコスタリカを訪ねました。中米訪問のひとつの目的は、JICA(国際協力事業団)の「二十一世紀のボランティア事業のあり方」研究会の委員として、海外青年協力隊などの現地視察を行うこと。現地視察などを経て、昨年九月に報告書を作成し、JICA総裁に提出しました。誕生以来四十年を経た青年海外協力隊等事業の見直しを進めるための委員会です。
 グアテマラで水道もない地域で貧困撲滅のプロジェクトを進める女性や、コスタリカで女性の地位向上のために国際会議までコーディネートする有能な女性など、体当たりで草の根の国際協力を行っている若者と出会いました。
 最終報告書では、JICAボランティア事業が、それまでの「経済及び社会の発展への協力」だけではなく、「日本国憲法に定められた平和のうちに生存する権利を享受できる社会の実現に向けて、貧困、環境破壊、人権侵害等の問題を解決し、豊かな未来づくりに貢献する」ことを目的とするとされました。現在、JICA内では、この「目的」を現実化するためのプロジェクトチームを作って活動中です。今後のJICAボランティア事業のさらなる第三世界への貢献を期待しています。
 そして、もうひとつの目的は、「コスタリカの人々と手をたずさえて平和をめざす会」の一員として、平和憲法を持ち、現実に軍隊を捨てたコスタリカの実状を視察すること。コスタリカ社会が、平和教育、人権保障、民主主義の三位一体としての実現を目指していることに感銘を受けました。
 でも、本当のところ市民はどう思っているのか。軍隊がなくて不安ではないのか……。
 しかし、国立博物館の守衛さん、露天商のおじさん、女子学生、デート中のとび職人など、市民たちは口をそろえて、「軍隊がないほうがいい」「軍隊を持つとかえって攻撃される」「人が嫌がることをしなければ嫌なことはされない」「軍隊を持たないから教育にお金をかけ、平和に暮らせる」と言い、誰一人、「軍隊があったほうがいい」と答えた人はいませんでした。
 コスタリカでは「難民受け入れ」についても驚きました。コスタリカは、ニカラグア難民を受け入れて人口が一・三倍以上にもなったとのこと。日本でいえば、四千万人の難民受け入れに該当します。経済的な負担になったのでは? と聞くと、「彼らを追い返すのではなく、どうやってニカラグアを平和で豊かな国にするか考えれば問題は解決する」と市民。
 米国では、9・11事件やイラク戦争を前に、外国人排斥運動が高まり、パトリオット法が制定されたと聞いています。日本でも、在日朝鮮人差別の激化は目を覆いたくなる醜さです。いつでも、戦争と外国人排斥は車の両輪でした。平和文化の構築をすすめる国コスタリカでは、難民の受け入れや隣国への平和輸出を目指しているのです。
 コスタリカ以外にも、米国をはじめ毎年一万人以上難民を受け入れる先進諸国がある一方、日本の受け入れは二〇〇二年がたった十四人であり、G7諸国の中でも、ダントツ・ワースト1です。
 興行(エンターテイナー)ビザで来日後、水商売などに従事させられるたくさんのアジアなどの出身の女性たちと難民を比較して、前・国連難民高等弁務官(UNHCR)緒方貞子さんも、「難民は二十年で三百人、エンターテイナーなら一年で十万人。エンターテイメントのほうが難民への思いやりよりはるかに優先されているのでしょうか」と入管政策のゆがみを痛烈に批判しています(『朝日新聞』二〇〇二年十一月十七日)。
 あるアフガン難民は、人種的・宗教的迫害ゆえに命からがら日本に逃れてきたにもかかわらず、強制収容所に拘禁されました。「日本に逃げてきたことは人生で最大の間違いだった」と彼は言います。日本の市民たちの心はもっと温かいはず……と思うと、やりきれない想いです。
 昨年五月の中国・瀋陽の日本総領事館への亡命者駆け込み事件をきっかけに、昨年より難民受け入れ制度の改正が政治課題となりました。今年は、出入国管理及び難民認定法の改正として、議論の舞台が国会に移ります。
 現在の入管政策は、「どうやって難民受け入れ数を減らすか」という観点で運用されています。「どうやって迫害を恐れる兄弟姉妹たちを助けるか」「どうやって世界中から迫害をなくすか」。そんな当たり前の発想をコスタリカから学びたいものです。今後の国会での議論にご注目ください。  
(どい・かなえ/弁護士)

コスタリカの人々と手をたずさえて平和をめざす会 http://www.jca.apc.org/costarica/


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