コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2003/04/18up)




◆受容・共感と簡単に言うが……◆

〈『部落解放』2003年5月号掲載〉

伊田弘行

 私は、社会政策、労働問題、ジェンダー・男女平等政策などをこれまで活動・研究領域としてきたが、近年はあらゆる場・関係における見えにくい権力・抑圧に、みんなが敏感になっていくことが大事だという観点で、スピリチュアルな人権論を打ち立てたいと考えている。私は、自殺防止に関わる傾聴ボランティア系の講座を受けるなかで、自分が相談する側にまわる体験などを通じて、どうでもいい「事柄」を聞かれることで話の流れを断ち切られ、自分が望んでいない方向に話をもっていかれる苦痛や、適切でないまとめや言い換えをされる違和感を実感した。では「感情に寄り添う」ときの要はなんだろうか。
 まず、上から下への関係である、「治療する、教える、導く、助ける、解決してあげる、励ます、問い詰める」という姿勢でなく、同じ目線の友達関係になって、ともに学ぶ、教えてもらう、寄り添う、一緒に考えていく、という姿勢を持つことだろう。テクニック/マニュアルで対応するのでなく、自分の全身全霊を傾けてその瞬間、即興性と個別性を大事にして、本気でかかわること。決まっているところに行くのでなく、決まっていないところに行かねばならない。軽く受け流さずに、相手が表出した感情や「たましい」に一つひとつ丁寧に心の底からの感情的受容を示すこと。そのためには、「それはつらかったですね」といった決まり文句に頼らず、こちらが受け止めたものをユニークに表現できるよう多様な言語能力を持つ必要がある。
 「弱さ」こそ大切、という価値観を持つことも大事である。普通では話しにくいことだが、本当に話したいことについて、逃げずに正面から向き合い話し合うこと。一見、そう見えなくとも相手は大事なことを語っているのだから、表面的訴えや質問に振り回されずに、一言一言を集中して聴き、相手の論理にくらいつき、その人の奥にある感情や本当に言いたいことを想像すること。
 聴いている自分自身の感情や「たましい」にも耳をすまし、深く驚きをもって聴き、それを正直に適切に表現すること。あまり考えずに状況を尋ねたり理由を探ったり分析したりせず、その状況がどれほどしんどいか想像力を働かせ、無批判的に感情で受け止めること。「死んで楽になりたい」「私は醜い、ダメな人間」「○○がめっちゃ腹立つ」「全然眠れない」「誰もわかってくれない」など、とても重いことを言われると、動揺してつい命令・否定・叱責したり、問い詰めたり、励ましたり、説教したり、アドバイスしたり、話題をそらしたり、笑って軽いことと思わそうとしたくなりがちであるが、まずは相手の文脈に寄り添って、「死にたい(醜い)と思ってはるんやね」「楽になれたらいいねえ」「腹立ちますよね」「眠れるといいねー」「気持ちわかってほしいよねー」「そう思って当然だよね」「がんばってきはってんねえ」といったような受容的な姿勢をもち、それに即して具体的にどんなときにどのように思うのか、どのように感じ、どのように苦しいのか、などを聴いていくこと。むやみに相手の話をまとめたり、先取りせず、あせって言葉を重ねず、話の腰を折らず、沈黙を尊重し、待つことを重視すること。よくある話・知識の話をせず、他の人と重ねて一般化せず、その人の感情に焦点を当てること。
 こうしたことの全体を身につけることが、家族・職場・友人関係における抑圧的関係をなくし、対等なコミュニケーションをもたらし、人権が守られるということであろう。これらは、頭で理解しているだけでは絶対にダメである。実際にやってみて、そのやり取りをテープにとって自分で聞き直したり、第三者に聞いてもらうことによって、自分のだめなところに自分で気づき、修正していくこと(自己改造)ができるのである。  
(いだ・ひろゆき/大阪経済大学教員)

※スピリチュアルな人権論については、
  『スピリチュアル・シングル宣言―生き方と社会運動の新しい原理を求めて』(伊田広行著/明石書店)

NPO法人 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター  http://www4.osk.3web.ne.jp/~befriend/

日本いのちの電話連盟  http://www.age.ne.jp/x/kaind/kansai04.html


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