コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2003/05/16up)




◆ ソーシャルベンチャーの挑戦 ◆
―今、若者は事業を通じて社会に関わる―


〈『部落解放』2003年6月号掲載〉

井上英之

 今の若者はすばらしい、と思う。そんなことを心底感じさせてくれるのが、今年で二回目を迎える「スタイル」という、ソーシャルベンチャー向け、ビジネスプランコンテストです。
 私は現在、外資系の経営コンサルティング会社を離れたあと、ETIC(エティック)という、東京・渋谷にあるNPOで、教育や福祉、環境などの社会分野に事業として取り組みたい、という若い起業家の卵の支援をしています。
 この頃では、ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)とか、ソーシャルベンチャーという言い方をするようになっていますが、そもそもは、自分がひとりの個人として発見した社会的な課題の解決にむけ、ただボランティアを続けるのでなく、事業として継続的に、成果としての社会のイノベーションを目指して働きたいという思いを持った人びと。そんな人が増えています。
 こうした事業を、私たちが本格的に始めたのは、約二年前です。当時は、このビジネスプランコンペが、今回のようにそれこそ全国から九十件を超える応募をいただけるなど、想像もしていませんでした。ただ、正直に言えば、予感ははっきりとありました。
 すでに、当時でも、欧米や途上国などの事例を見れば明確な流れはあり、とくに米国のビジネススクールにおいては、ソーシャルベンチャーのビジネスプランコンペを開催したり、MBA取得直後にNPOに行く、という若者も散見しはじめていました。
 まだ、言葉自体は生まれたてながらも、相当数の人が、社会起業という言葉にひかれ、実践を始めています。シアトルのパイオニア・ヒューマン・サービスのような、完全に事業的に自立したNPOや、同じビジネスでも社会性を本業のモデルの中にとりいれ、なおかつ業績を残す(立ち上げ期の“BODYSHOP”など)例もあります。
 よくよく考えてみれば、私自身、大手の外資系コンサルティングをしながら、薄々感じていたことなのですが、伝統的日本企業には変革が必要です。ですが、だからといって、身を削るように働くハードなワークスタイルや競争社会、いわゆるグローバルスタンダード型のワークスタイルしかないのでしょうか? それ自体はエキサイティングな部分もあり、否定はしないのですが、今、多くの人は、「どう勝ち残るか」よりも、「なぜ働くのか」、そちらの方に関心があるのではないでしょうか?
 そういう意味では、実は、もともと日本には、事業活動自体の社会性を考える向きはあったと思います。多くの企業の社是には、必ず社会性がうたってありますし、中小企業の経営者に創業の話をきくと、意外と、メンタリティーはソーシャルであったりします。
 実は、この「スタイル」という若手向けのビジネスプランコンペ、社会的な起業向け、といいながら、集まってくる大学生や若手社会人のみなさんの底にある動機は、非常に昔から変わらないものだと思っています。どうせ働くのであれば、一生懸命に自分のすることを愛したい。それならば、自分で発見した、どうしても取り組みたいテーマで、困難があってもタフに取り組んでみたい。だからこそ、審査プロセスにおいても、非常に感動してしまうことが多いのです。
 昨年、「スタイル2002」で優秀賞と感動賞を受賞した、藤岡亜美さんはその典型でした。文化人類学のゼミで住みこんだ、エクアドルのある村で出合った鉱山開発。便利な生活を取るのか、子どもたちにその森を残すのか、選択を迫られた住民は後者を選びます。その姿に感動し、多くを学んだ彼女は、今、木を切らずに栽培できるコーヒー豆の販売と、そのつながりの先にある東京の人たちにスローなライフスタイルを伝えようと、すでに事業を開始しています。
 また、赤坂にあるスワンベーカリーなどは、日本でのこうした取り組みの先進例です。障害者とともにカフェを経営し、スターバックスなどがひしめくカフェ激戦区で成功しています。その姿を見て、スターバックスがスワンを訪問、日本での障害者雇用を決めたとききますが、まさにイノベーション(社会変革)です。
 どうしても取り組みたいテーマで、継続的に事業として取り組む。これは、決して言うほど簡単なことではありませんが、これに挑戦する人たちの顔は輝いています。また、経営ノウハウを含め、彼らには足りないものばかりです。ですが、気づいてみると私の身のまわりでも、相当のキャリアの人たちが、彼らの思いや強い原体験に巻き込まれ、うれしそうに手伝っています。
 私のいる場所から見ると、日本はどう見ても良くしかならない。そう感じています。  
(いのうえ・ひでゆき/NPO法人ETICソーシャルベンチャーセンター)

ソーシャルベンチャー・ビジネスプランコンテスト“スタイル2003”  http://www.etic.or.jp/style2003

スローウォーター・カフェ  http://www.slowwatercafe.com


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