コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2004/05/20up)




◆ 「幸せになりたい」
なぜオウムに入信したか・信者370人の呟き ◆


〈『部落解放』2004年5月号掲載〉

新納功一


 「自分が汚れていったプロセス、屈折の原因を知りたかった(女性在家信者・八九年入信/筆者註・西暦年は入信の年)」「気が狂うのではないかと思ったほどの苦しみが、一瞬にして消えたことは忘れられません(女性出家信者・八九年)」「幸せになりたいから(女性出家信者・八九年)」
 手元に一冊の小冊子がある。「進化」と題されたオウム真理教(アーレフに改称)の内部機関誌だ。冒頭の言葉は、昨年十二月発行の同誌が掲載した、「なぜ入信したか」などのアンケート調査に対する信者の回答の抜粋だ。奇妙なことに、オウムは昨年末全国の信者を対象にアンケートを行い、三百七十人から有効回答を得たとして、その結果を機関誌に掲載した。当時教団は上祐史浩代表の指導部離脱などをめぐって内紛状態にあり、内部固めのためプロパガンダとしてアンケートを行ったとも考えられる。しかし警察や公安調査庁などでは、アンケートは確かに実施されたとみていて、調査結果は信者の心情が現われた第一級の資料として分析がすすめられている。
 この調査結果から浮き彫りになるのは、仕事などで高いレベルの悩みを抱えて悩みぬいた末、わらにもすがる思いでオウムに溺れていった迷える者たちの姿だ。冒頭の「幸せになりたいから」はこう続く。「グル以上に、自分自身の心を理解して解放してくれる存在はなかったから」。この「グル」が松本智津夫(麻原彰晃)被告のことを指しているのは言うまでもない。これは驚くべきことだ。教団が松本被告との関係を否定し、しかも同被告が一連の事件の主犯であることが一審で明らかになってもなお、この女性信者は帰依を公言しているのだ。他にも同様の声は多い。「グルの解き明かした教義や修行を実践すれば、いずれ自分自身も最終解脱でき、真理勝者になれると本当に思っている(男性在家信者・八六年)」「グルに意識を集中するとエネルギーを感じます(男性在家信者・九三年)」
 東京都内に住む「オウム真理教家族の会(旧・被害者の会)」会長の永岡弘行さん(65)は、信者の脱会を支援する活動を続けている。永岡さん自身、オウムからVXガスで襲撃されて瀕死の重傷を負った。かつて息子が短期間だが入信していたところを脱会させた経験から、現在、信者に脱会を説得する活動を続けている。永岡さんはこのアンケート結果を読み、激昂した。「なぜこの程度の子どもの悩みに、親は気付かなかったのか。情けない」。そして付け加えた。「人間を破壊する麻原の教えが生きている以上、教団は危険だ」
 今年二月、松本被告に死刑判決が言い渡された翌日から、新聞・テレビなどマスコミからはオウム関連報道は極端に減り、一段落したかのようなムードが漂っている。しかし教祖や弟子たちを裁いたからといって、オウム事件は終わりではない。なぜオウムが最盛期一万人を超す巨大組織に成長し得たのか、なぜエリートと称される者たちが次々と犯罪に手を染めていったのか、深い考察を加えるべきだ。人生に対する姿勢が真摯であればあるほど、人はさまざまな悩みに突き当たるだろう。そんな苦しむ人に救いの手を差しのべられなかった社会や家庭、学校とは何なのか。戦後この国が目指してきた「民主主義」は物質的な豊かさとは裏腹に、内面に大きな貧しさを抱え込んでしまったのではないか。この貧しさはあちこちで露呈しはじめている。最近「児童虐待」が多発していることも無関係ではない。余談だが、本当に許しがたい虐待は、ほとんど報道されていない。養父による娘へのレイプ=セクシャル・アビューズだ(この件については稿を改めたい)。
 信者を脱会させ、一日も早い社会復帰を図るよう、取り組みを開始すべきだ。しかしその際、教団は被害者への補償を怠ってはならない。

しんのう・こういち/テレビ・ディレクター



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