コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2005/07/05up)




◆ 歌をとおして伝えたいこと ◆

〈『部落解放』2004年6月号掲載〉

渡辺千賀子

 
 「心に沁みる歌声でした」「渡辺さんの歌声に感動し、心が安らぎました」「涙が止まりませんでした」「もう一度聴きたい」
 これは、私の歌を聴いてくださった方たちからの感想です。今では全国各地、あちこちの学校や地域、宗教関係の方々の人権に関する催し物への依頼が来るようになりました。「私ができることから」という私の想いを受け止めてくださった方が大勢いたのです。人の心にまっすぐ入っていく歌を届けたい。私の歌を聴いてくれた人の心に何かの想いが生まれる歌を――。そんな気持ちからコンサートが始まりました。
 私は、短大を卒業する直前に、自分が被差別部落の出身だということを知りました。自分の将来を悲観し、泣いた日もあります。そんな私に一歳下の弟は言いました。
 「お姉ちゃんには歌がある。その歌声を世界中に響かせてほしい」
 それですぐに、すべてのことが吹っ切れたわけではありませんが、弟の言葉は「歌で世界に羽ばたきたい」という私の想いをいっそう強いものにしました。
 学校や社会でのいじめ、また、「たまたまそこに生まれた」「たまたまその性に生まれついた」というだけで差別が存在する。こんなおかしいことはありません。
 すべての人が、誰からも邪魔されることなく、自分の夢に向かって生きていける社会をつくりたい。そのために私にできることは何かと考えたとき、やはりそこにあったのは歌でした。
 そして、「私ができることを」と始めたのが「小さな手のひらコンサート」です。
 戦争の悲しさを歌った「フランシーヌの場合」「原爆を許すまじ」、朝鮮半島が二つに分かれてしまった悲しみを歌った「イムジン河」、私の差別体験から作られた「耳をすまして」、メッセージ曲として「上を向いて歩こう」「翼をください」など、みなさんにもおなじみのフォークソングを通じて人権を語ろうというものです。歌の合間のトークで、手話も交えてそれぞれの歌と人権とのかかわりを紹介します。
 最初は、三重県名張市の公民館で年一回の小さなコンサートでしたが、今では舞台は全国にひろがり、公演回数は年間五十回を超えます。人の心に想いが生まれる歌を歌いたい。それは、私が歌うことで何かを一方的に感じてもらうのではなく、私もその想いをわかち合うことで力をもらっているのです。
 かつて、部落出身の女性に「千賀子さん、舞台に立つあなたの姿、あなたの歌声は私たちの誇り、そして希望です」と言われたことがあります。
 私の歌で、聴く人が人権について想いをめぐらせ、そして私も一緒にそれを考えていけるのならば、歌い続けることが「私ができること」なのです。 (わたなべ・ちかこ/声楽家<ソプラノ>)


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