コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2005/07/05up)




◆ アイヌ民族共有財産裁判、札幌高裁も「門前払い」 ◆

〈『部落解放』2004年8月号掲載〉

木戸 宏

 
 アイヌ民族の共有財産返還をめぐり、アイヌ民族有志が原告となって札幌高裁に「でたらめな管理の経過を無視した返還は不当であり、行政処分の取り消しと調査のやり直し」を求めて争ってきた控訴審判決が五月二十七日行われ、同高裁は原告の訴えを棄却した。
 アイヌ民族の共有財産については本誌四八七号のこの欄でもご紹介したが、簡単にまとめておこう。明治政府は一八六九年、先住アイヌ民族の了解なしに、それまで蝦夷地と呼ばれた島を北海道と改めて日本国領土に組み込み、アイヌの国土を奪い、アイヌ民族への同化政策を開始した。それにともない、アイヌ民族共有の土地や漁場からの収益金、教育基金などを一括して「北海道旧土人共有財産」とし、その管理を北海道長官(知事)が行うとした。これがアイヌ民族共有財産と呼ばれるものである。これは北海道旧土人保護法に規定されていたが、一九九七年の同法廃止にともない、これをアイヌ民族に返還する、という公告を行った。その内容は、現金にして百四十七万円ほど、つまり、アイヌ民族から一方的に奪った北海道の値段がたったこれだけ、しかも、この間の一万倍ともいわれる貨幣価値変動を考慮しないという、まったくアイヌ民族をバカにした内容であった。
 控訴審の中で原告側は、専門家による証人尋問などで他にも多くの共有財産が存在した事実を証明し、道による財産管理のずさんさを暴露することで、道の返還手続きの不当性を訴えた。道は百年におよぶ管理の経過を一度たりともその権利者であるアイヌ民族に説明したことがなく、返還処分の方法決定からもアイヌ民族を排除した。これはまさに民族差別というしかない。裁判所も判決の中で「道の財産管理には問題があった」と指摘せざるを得なかった。しかし、この点について判決は、「道が返還すべき財産は、新法制定の際に現に管理する財産に限られる」として「改めてそれらの財産を発見した場合は、再度返還手続きをすべき」という、驚くべき幼稚な判断を示した。さらに判決を受けて高橋はるみ道知事は「再調査は考えていない」と述べ、アイヌ民族無視の姿勢を鮮明にした。
 なお、このことに関連して、アメリカ合州国における「インディアントラスト(信託財産)裁判」に触れておこう。この二つの裁判の内容は驚くほど酷似している。それもそのはずで、日本におけるアイヌ民族政策は、合州国のインディアン政策を模倣したものだからである。この裁判は、連邦政府が管理してきた数十億ドルにもおよぶインディアンの財産の実態を明らかにさせるとともに、制度の改革を訴えて、エルース・コベルという先住民女性が中心となって起こしたもので、インディアンによる最大規模の裁判とされる。裁判の過程で、連邦政府によるずさんな管理と不正の数々が明らかになり、ランバース判事はまず、故意に証拠書類の提出を遅延したり偽造した内務省と財務省の責任者に法廷侮辱として六十万ドルの罰金を命じ、さらに信託制度を五年間裁判所の下に置くと決定した。これを不服とした連邦政府は控訴したが、控訴裁判所は政府の不正を認め先の決定を支持した。そのうえに内務省の信託制度改革を監視する監視官を任命して裁判所に報告させた。この報告にもとづき裁判所は二年前、内務省長官(日本では大臣にあたる)など二名を法廷侮辱罪と断じた。この裁判は現在も継続中で、その結果はインディアンの権利回復に多大な貢献をすると予想される。
 合州国でもまた日本においても、その先住民族政策と歴史は血塗られたものであり、自ら破壊した相手を保護してやるという「バターナリズム」において共通するものがある。それは現在の日米のイラク政策にもつながるものだが、こと裁判に関しては合州国と日本との差異は明白である。原告(小川隆吉団長など十八人)はただちに最高裁に上告した。私たちもこのことを現実のアイヌ民族の権利問題として、同時に、国民的な普遍的権利にかかわる課題として関心を持ち、支援の輪を広げていくべきであろう。(きど・ひろし/アイヌ民族共有財産裁判を支援する全国連絡会九州地区委員)

註/「インディアン」という呼称はコロンブスの誤解から生じたもので、不適切であるものの、現在ではアメリカ先住民の自称となっている。  


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