コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2005/09/06up)




◆ 落米のおそれあり ◆

〈『部落解放』2005年9月号掲載〉

岡本光博

 米軍機が頭上を通過する度に、機体の爆音に包まれる。ジワジワと音量が上がり、最も接近した状態では、とても会話などできる状況ではない。平均して約三十分間隔、三十秒間ぐらいだろうか?
 私が沖縄に来たのは昨年の十一月。それからしばらく経って、知り合いの紹介で「幻のグスク」発掘の手伝いをさせてもらえることとなった。そのグスクは、沖縄最古の歌集である「おもろそうし」にも歌われてはいるのだが、今まで場所が確定できなかったという代物である。まさに歴史の点が線になるかもしれないというその現場は、遺跡フェチの私には、たまらないものがあった。しかし、そこで体感するアメリカ軍戦闘機による爆音は、さらにたまらないものであった。現場は、普天間基地から数キロ離れたところに位置していた。このような状況に置かれたことのない私は、どれほど戦闘機が近づくと会話が成立しなくなるのか、そのタイミングがわからず、話のオチが飛んでしまったり、逆に慌てて話をまとめようとして訳の分からない状態に陥ってしまう、というサムい経験をすることとなった。この現場で長く作業してきた人たちは慣れたもので、話を中断するタイミングをよく心得ている。
 私の現場での作業は、ほんの短期間であったが、普天間基地周辺は大学などの文教施設も多い市街地である。騒音による授業中断が日常化しているという学校や病院だけでも、その爆音から守りたいと考えてしまうが、残念ながら、無差別に浴びせられ続けているのが現状だ。日常的に音世界を奪われ続けてきた沖縄の人々の苦痛、及び精神的な悪影響など、到底理解できないだろう。
 昨年の八月、普天間基地に隣接する沖縄国際大学の敷地内に、米軍のヘリコプターが墜落した。事故処理をするアメリカ兵たちは、毒ガスマスクに完全防護服といういでたちであったという。墜落したヘリが、とんでもない化学兵器を搭載していたのだろう。細菌兵器だったのかもしれないし、アメリカを好きになる毒ガス兵器だったかもしれない。米軍からはろくな説明もないという。しかし、近隣住民に「物理的な落下だけではない恐怖」を与えたことは確かである。
 このように、アメリカの殺人道具が爆音を出して日常的に頭上を徘徊する、という桁外れに恐ろしい沖縄の現状は、美術表現を用いて問題を提起するという私の美術活動のモチベーションとしては十分なものであった。そして、立ち上げたのが「落米のおそれあり」プロジェクトである。
 「落米のおそれあり」とは、「落石のおそれあり」という道路標識をベースに考案した作品であり、四つの落石の部分に、それぞれ「パラシュート部隊、イーグル戦闘機(ショーグン)、シャーマン戦車、ヘリコプター(沖国大に墜落したCR−53D型)」をデザインしたものを配置し、山の部分には星条旗のデザインを組み込んだものである。
 プロジェクトでは、個展やHPを通して、建物の屋外部分に、この標識を設置してくれるビルのオーナーや家の持ち主を募った。
 個展の際、取材で訪れた琉球朝日放送の宮城アナは、作品を見て「落石の報道をしたことは無いが、米軍関連の落下事故の報道はよくします」と話されていた。実際に実現した数カ所での設置を起点に、警戒標識の作成管理者である県や市の理解が得られ、標識「落米のおそれあり」が、より広く沖縄の街角に提示されることによって、一般市民や観光客、当事者である米軍兵らに、基地の危険性を日常的に感じさせることが出来るよう展開していきたく考えている。(おかもと・みつひろ/現代美術作家)

ホームページ  http://www.d2.dion.ne.jp/~oka69/  


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