コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2005/11/08up)




◆ 小説と私 ◆

〈『部落解放』2005年11月号掲載〉

中村敦夫

 政界を引退して残ったのは、膨大な資料の山である。資料の中で大きな比重を占めるのは、議員連盟「公共事業チェック議員の会」会長として、全国を視察して集めたデータだ。環境問題関連のものも少なくない。どれもこれも簡単に手に入らないものばかりで、現役なら政治活動の強力な武器になる。しかし、今となっては使い道もなく宝の持ち腐れだ。私の脳に経験や情報を保管しておくだけでは、いかにももったいない。なんとか少しでも活かす方法はないものだろうか、とずっと思案していた。論文のようなものを書いても読む人は少ないだろうし、それぞれの分野では専門家たちが多くの本を出している。専門的なことはその人たちにまかせたほうがよい。
 私が本当に伝えたいのは、情報だけではなく現場で現実に直面した時の感性のゆらめきと、ものごとの本質をどう見たかということである。そこで、やっと妙案が浮かんだ。小説を書いてみたら、というアイディアである。
 私はこれまで、五作の小説を出版している。東南アジア三部作と社会小説二作だ。処女作『チェンマイの首』(講談社)は、国際小説のはしりとなって、運良くベストセラーになった。実をいうと、私は小説家になりたくて書いたわけではなく、また文学にのめりこんでいたわけではなかった。
 私の生涯の目的は、今でも実現していないのだが、その時代を映し出すようなすばらしい映画を作ることである。しかし、私が俳優で売り出したのはテレビ界であり、この頃、映画産業は衰退の一途をたどっていた。どのジャンルでも国際化の波が押し寄せ、ドラマチックな事件が多発しているのに、映画界はますます内向きになり、縮小路線へ自らを閉じ込めてしまった。国際的なテーマを映画にしようなどという能力も気概も皆無だった。そこで私は、映画の構想として考えた物語を、小説の形式で表現しようと試みた。つまり、映画のような小説を目指した。
 社会小説のひとつ『狙われた羊』(文藝春秋)は、私の批判的なコメントが原因で霊感商法の統一協会から名誉毀損で告訴されたのがきっかけだった。私は反撃の手段として、この小説でマインド・コントロールの現場を暴露した。
 文学に興味がないわけではないが、私が小説を書くモチベーションは、なにかを表明するための手段になってしまう。さて、今回はどうなることか。テーマはたくさんある。そのなかで私は優先順位をつけることにした。最初に手がけるのは「ゴミ問題」である。地球温暖化と並んで環境汚染は、人類の存亡にかかわる危機的段階にさしかかっている。とりわけ、有害化学物質を生活環境にばらまいているゴミ問題は深刻だ。
 物語は、ゴミ処分場建設をめぐって紛糾する東京郊外の小都市で展開する。まず読者を魅きつけることが必要だから、当然殺人事件が起きる。こうなれば、ミステリー探偵小説以外に選択肢はない。ミステリーでは探偵のキャラクターが決め手であるから、かなり個性的な人物でなければならない。私はこの主人公を、野鳥観察が趣味の禅僧に設定した。これは、私が今仏教を研究していることも動機になっている。タイトルは仮題だが、「無明の里」となっている。日本で最初の環境ミステリー小説となるか。三百五十枚以上の大作を構想しつつ、机に向かって武者震いをしている。(なかむら・あつお/前参議院議員、俳優、作家、脚本家)

中村敦夫公式サイト http://www.monjiro.org/  


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