コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2006/03/22up)




◆ 大学(人)の退廃 ◆

〈『部落解放』2006年3月号掲載〉

歌野 敬

 都会の喧騒を逃れここ五島列島・上五島に移住して二十年目に入る。田畑を耕し、果樹を育て、味噌・醤油から焼酎までさまざまな手づくり品を楽しみ、廃材を利用して豚舎をこしらえ、炭を焼き……「衣・食・住からエネルギーまで可能な限りの自給」の暮らしだ。
 それはともあれ、時代錯誤的な脱近代文明を目指して移ったこの島に、最近とんでもない問題が持ち上がった。あろうことか高レベル放射性廃棄物処分場を誘致する動きが表面化したのだ。高レベル放射性廃棄物とは原発の使用済み燃料を再処理したあとに残るごみ、近代文明最悪のシンボルといえる代物。猛毒かつ数万年にわたり放射能を出すこの死の灰の缶詰を、地下三百メートルの地層に埋めて捨ててしまおうという計画だ。六ヶ所村でトラブル続きの日本原燃が技術開発を担い、深地層処分技術は未確立、高レベル廃液を封じ込めるガラス固化体製造技術も難題続出という惨澹たる状況の中で、一方で原発施設内に仮保管されている使用済み燃料のプールの余裕がなくなってきているため、見通しもないままに虚妄の核燃サイクルを貫徹しようという画策の結果の、島の騒動なのである。海と海産物が最大の財産である島にとって、誘致は島の売り渡し以外ではない。これに対しわたしたち住民有志はすぐさま反対運動を立ち上げ、今のところ誘致運動の押さえ込みに成功しているが、ここではその間に明らかになったあるエピソードを紹介しておきたい。
 誘致派の主役は島出身の東大名誉教授・宮健三氏。原子力工学の専門家としてこの国の原発推進に長く関わってきた人物で、原発啓蒙を定款に謳う「日本の将来を考える会」(IOJ)なるNPOの代表、かつ電力会社の調査・分析などの下請けをやる(株)普遍学国際研究所の代表でもある。ともに名称からしていかがわしさを感じるのはわたしだけであろうか。
 このIOJの主催で、〇四年度から「東大体験学習」なる事業が実施されている(共催/町)。島の中学生の中から選抜し、東大キャンパスで一日講義を受け、学食で食事をし、翌日は東京の子供たちと交流するプログラム。これだけを取り出せば宮氏の故郷への貢献美談にもなろうが、何気なく覗いたIOJのHPで昨年の講義内容を知り愕然。原子力PR関連一色なのだ。ここまでやるかと注視するなか、今年も募集を開始。運動のちらしなどで問題を指摘してきた成果か、講義内容の原子力色が薄められている。でも念のためと講師陣とテーマを確認してみた。結果はまたしても「?!」。
 五人の講師のうち四人は東大教授・助教授。もう一人はWIN(Women In Nuclear=原子力関連の仕事に携わる女性の団体)なる組織の会長・小川順子氏。本職を調べれば原発の国策会社・日本原電の広報室所属(最近、社外の研究機関に出向しているらしい)で、当然原子力利用が講座テーマ。核融合を講義する東大教授の一人は実は電力中央研究所の研究員で、電中研がスポンサーになって開設している講座(冠講座)の出張講師に過ぎない。つまり肩書は限りなく詐称に近い。助教授二人のうち片方は宮氏の弟子、もう一人は未確認だがこれも弟子と想定される。最後の医学系教授は宮氏の友人らしく、電話で確認すれば、依頼は受けたもののテーマも日時もこちらが教えてあげる始末。つまるところこの美談の真実は変わらぬ原発PRで、これを偽装すべく姑息な小細工を弄しただけなのだ。
 それにしても東大という虚構の権威を悪利用する露骨な事業を堂々と許し、冠講座として企業に売り、教授は金儲けに余念がなく……という現実は凄まじい。独立行政法人化以降の顕著な現象かもしれぬが、昔日の“学問の府”はすでに古語辞典のカテゴリーと見做すほかないと心に銘じておこう。 (うたの・けい/田舎暮らしネットワーク世話人)

田舎暮らしネットワーク http://www.inaka.gr.jp/  


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