コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2006/07/19up)




◆ やっぱりヘンだよ、障害者自立支援法――一人ひとりの力で変えていこう! ◆

〈『部落解放』2006年7月号掲載〉

野谷 靖

 障害者自立支援法をめぐる座談会(五月号に掲載)のお手伝いをさせていただき、改めて勉強になりました。どの障害をもつ方にとっても、自立支援法は非常に大きな問題があるといわざるを得ません。
 さて、筆者は自立生活支援センター・ピア大阪に勤務して十二年になり、気がつけば障害者運動との関わりも二十五年になりました。障害者主体の自立生活センターにおいて健常者スタッフとして若干の当事者性をもちながら働いてきました。実は精神科の診療所に通院しており、この十二年のうち二年間の休職がありながらもなんとか働き続けています。病名は心因反応で、精神的なストレスが過度に蓄積すると、不眠や、幻聴・関係妄想等の陽性症状が起こります。現在は寛解状態です。精神障害者通院公費負担医療の適用を受けていますが、精神障害者保健福祉手帳は非該当になりました。通院公費負担医療は自立支援法で自立支援医療に変わり、一割負担へと倍増しました。多くの精神障害者は決して満足な収入を得ていませんので、負担増になると通院を控えてしまい、結果として調子を崩す人が増えるのではないかと心配です。退院促進事業が少しずつ進み、精神病院での社会的入院を余儀なくされてきた人達がようやく地域での生活を獲得しつつあるのに、医療や福祉サービスにかかる負担が増え利用を抑制されてしまうと、その人達がまた精神病院に戻っていくようなことにならないだろうか? やはり自立支援法と言うよりも「福祉サービス利用抑制法」と言った方が正しい名称だと感じます。
 さて、ピア大阪では障害者の自立を支援するために、相談事業(ピアカウンセリング)と自立生活体験室の利用を通じた自立に向けた力の獲得(エンパワメント)を二つの柱にして諸事業を進めています。障害当事者のリーダー養成講座であるピアスクールを十一期まで開催し、既に百八十名が修了し、多くが地域の自立生活センターで活躍しています。また、市民啓発の人権講座の開催や、情報資料室、機関誌「ピア大阪ニュースドリーム」の発行やホームページでの情報提供も行っています。とりわけ障害者の中でも施策の遅れている盲ろう者(見えない・聴こえない重複障害)への通訳・介助者の派遣事業も実施してきました。
 支援費制度の開始でようやく障害者の自立を支える基盤ができつつあるのを実感していただけに自立支援法の低い単価や障害程度区分による低い認定によって多くの障害者は受けるサービスを我慢せねばならなくなります。介助者の資格もヘルパー二級以上でないと減算されてしまい、介助者確保がますます困難になってしまいます。長時間介助が必要な障害者が地域で生きにくくなる自立支援法ってやっぱり何かヘンですよ。
 自立支援法で言う「自立」は、私達が取り組んできた新たな自立理念とは大きくズレています。私達は旧来の身辺自立や職業自立とは違い、介助者の手を借りての自立生活を主張してきました。自己決定と自己選択を基礎に、介助を受けながら自分らしい生活を築きあげていくことを自立と呼んできました。だから自立支援法のように介助サービスを受けるほどに負担が増える仕組み自体が基本的に間違っているのです。
 最後に自立支援法の問題点をいくつか挙げておきます。障害程度区分は百六項目もの調査票に基づくにもかかわらず、介護保険同様の身体機能中心で特に知的や精神のニーズに対応できていないこと、精神障害者の症状の波を反映できないこと、調査員が障害者のことを理解した人とは限らないこと、重度障害にもかかわらず低い不当な判定をされかねないこと。また、介護の報酬単価自体が低過ぎ、支援費の水準をも割り込む可能性が高いこと。重度障害者包括支援さえ、国基準どおりの支給決定なら最高額で月に四十五万五千円となり、必要な額の三分の一にしかならないこと。応益負担となり一律一割となるが、そもそも低所得な障害者からこれ以上搾り取ってよいのか。認定審査会の構成も多くの市町村で主に医師やPT(理学療法士)などの専門家だが、支援センターの当事者こそ委員にすべきだ。介助者の資格要件で三級などは減算するが、これからますます大量に必要になる介助者を絞り込んでどうするのか。利用の多いガイドヘルプを介護給付から外し、市町村ごとの地域生活支援事業に組み入れたが、国の補助は裁量的経費にとどまり、時間数や利用制限は市町村まかせになり、予算の厳しい自治体はこれまでの時間数も守れない可能性が高い。関西は全国で一番ガイドヘルプが充実していたが、全国的にはガイドヘルプが実施されていない市町村も多く、時間数でも平均月二十時間程度の派遣だ。これからは大阪でも時間数が減ったり一割負担が導入されるなど厳しい状況が予想される。
 総合的に見て、自立支援法下のサービスは支援費の水準より引き下がると思われます。
(のたに・やすし/社会福祉法人大阪市障害者福祉・スポーツ協会 自立生活支援センター・ピア大阪職員)

自立生活支援センター・ピア大阪 ttp://www5.ocn.ne.jp/~peerosk/    


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